連載115 山田順の「週刊:未来地図 日本経済SOS(1)量的緩和の限界 東京五輪を前に景気減速から財政破綻に向かうのか?(下)

国債は完全なリスク資産になった

 このように見てくると、アベノミクスの金融政策(=異次元緩和)は、国債バブルを生み、政府の財政赤字を拡大させる原動力になったにすぎない。日本経済を活性化などさせなかったのだ。
 しかし、国債に金利がつく世界(これが正常)になれば、もはや政府は財政を拡大させることはできない。そればかりか、利払い費に予算を注ぎ込まなければならなくなる。それを回避するため、さらに国債を発行することもできるが、財政が逼迫している政府が発行する国債は高金利でしか売れない。となると、国債はリスク資産となり、政府はついには国債を発行できなくなる。
 こうして、財政はさらに逼迫し、いやおうなしに破綻に向かうのである。
 この状況を見越して、三菱UFJグループは、すでに2016年1月の時点で、国債の入札に参加する特別資格「プライマリーディーラー」を返上してしまった。国債を完全なリスク資産と認定したからである。これは、財務省と日銀に対する反抗だが、その後、政府が三菱UFJグループに嫌がらせをした形跡はない。

今年のGDP成長率はマイナスに転じる

 政府が毎年、赤字を穴埋めするために国債を発行し、累積赤字が積み上がっていくと、じょじょに財政に対する信任が失われる。これは、会社でも家計でも同じで、借金が増えていけば、「危ない」と思い、もうおカネを貸す人間はいなくなる。
 現在の日本政府はその状況で、いまや日銀のみが国債の買い手だ。もちろん民間を通して買っているが、これは形式だけである。よって、これは財政ファイナンスであり、日本政府の財政は事実上破綻している。
 したがって、この破綻状態をみんなが認識するようになったときが、本当に危ないときだ。もちろん、政府だから、会社のように倒産して清算というわけにはいかない。
 追い込まれた政府がやることは決まっている。かつてギリシャがやったように、公務員給料、年金、医療費、介護費、教育費、自衛隊費用などの財政支出を大幅にカットすることだ。こうなると、社会福祉の多くは失われるので、国民は一気に貧しくなる。

 このときがいつ来るかは、オオカミと同じでわからない。ただ、国債取引が不成立になる状況が頻繁に起これば、時期はどんどん早まるだろう。
 これまでは、「東京五輪までは持つ」と言われてきた。しかし、すでに日本経済は人口減の影響で縮小に入っている。GDP成長率は今年に入ってマイナスに転じている。この6月8日に内閣府が発表した2018年1~3月期の実質GDPの2次速報値は、前期比0.2%減、年率換算で0.6%減である。景気は完全に減速しているのだ。
(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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