連載116 山田順の「週刊:未来地図」日本経済SOS(2)経済成長は限界 生産性の向上、AI、移民に頼らないでダウンサイズを(上)

 日本経済は、少子高齢化、人口減により、本当に縮小を始めたようだ。東京五輪まで持つと言われた景気も持ちそうもない。
 では、日本は今後どうしたらいいのだろうか?
 もちろん、大規模な社会変革が必要なのは言うまでもないが、私はもう「経済成長第一主義」は捨てるべきだと思っている。成長よりも、思い切ってダウンサイズして、規模は小さくとも十分に幸せに暮らしていける国を目指すべきだと思うのだ。

「たくさん子どもを産め」という時代錯誤発言

 さる6月26日、自民党の二階幹俊博幹事長が、都内の講演会でした発言がいまも物議を醸している。私も正直、やはりこういう認識なのかと、いまもなお呆れている。
 二階氏の発言は、ひと言で言うと、とんでもない「時代錯誤」だ。いまの日本について、完全に誤解している。
 では、二階氏はどんな発言をしたのか?
 講演会で、参加者から「自民党と政府が一体になって、早く結婚して早く子どもを産むように促進してもらいたい」と言われ、それに応じてこう答えたのだ。
 「大変、素晴らしいご提案だと思います。そのことに尽きると思うんですよね。しかし、戦前のみんな、食うや食わずで、戦中、戦後ね、そういう時代に、子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしようと言った人はいないんだよ」
 「この頃はね、子どもを産まないほうが幸せに送れるんじゃないかと、勝手なことを自分で考えてね。国全体が、この国の一員として、この船に乗っているんだからお互いにーー」
 「だから、みんなが幸せになるためには、これは、やっぱり、子どもをたくさん産んで、そして、国も栄えていくと、発展していくという方向にみんながしようじゃないかと。その方向付けですね。みんなで頑張ろうじゃないですか」
 「食べるに困る家は、実際はないんですよ。いちおうはいろいろと言いますけどね。今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にはないんですよ。だから、こんな素晴らしいというか、幸せな国はないんだから。自信持ってねという風にしたいもんですね」

日本の家庭では相対的貧困が進んでいる

 どうだろうか?
 こう発言を書き起こして、改めて読んでみると、ぞっとしないだろうか?
 いくら歳(79歳)とはいえ、こんな考え方は許されない。これでは、「子どもを産まない女性は国に貢献していない。よって、価値がない」と言っているのと同じだ。
 つい先日も、自民党の加藤寛治衆議院議員が、披露宴の席で、「新郎新婦には、必ず3人以上の子どもを産み育てていただきたい。結婚しなければ、人さまの子どもの税金で老人ホームに行くことになる」とスピーチし、猛批判を浴びて謝罪・撤回したが、結局、この人たちはなにも分かっていないのではなかろうか。
 産むも産まないも、個人の自由だ。それが、認められているのがいまの社会である。したがって政治家は、このように人の自由を侵す発言をするより、子育てをしている女性の環境を少しでも良くすることに腐心することが仕事だろう。
 ただし、「子どもを産め」発言より私がぞっとしたのは、「食べるに困る家は実際はない」「今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にはない」という発言だ。二階氏は、日本の子どもたちが、いまどんな状況にあるかまったくわかっていない。
 日本の家庭は年々、世帯収入を減らしており、貧困化が進んでいる。
 貧困問題は、絶対的な貧困よりも、相対的な貧困のほうが切実である。人間は単に食べるものがあって生きていればいいというものではないからだ。
 そう思うと、日本の「相対的貧困率」はあまりに高い。これは世界的にみても先進国では異常であり、とくに「ひとり親世帯」(就労者)は50.8%と、OECD(経済協力開発機構)の調査でも主要国で最悪レベルだ。なかでも子どもの相的対貧困率は、これまで何度も社会問題になっていて、いまや7人に1人の子どもが相対的貧困状態にあるとされている。
相対的貧困状態にある家庭でも、たしかに「今晩の飯を炊くお米が用意できない」ということはない。生活保護があるし、貧困家庭には各種援助があるからだ。その意味では、二階氏の発言は間違っていない。しかし、ただそれだけの話ではないだろうか。

人口減社会の恐ろしさを認識していない

 政治家がこれだから、一般の国民自身も「少子高齢化社会」「人口減社会」の恐ろしさにピンときていない節がある。いまのままの経済規模を維持して成長政策を続ければ、いつか必ず破綻がやって来る。
 まず間違いなく、年金は破綻するだろう。2060年の日本の人口は8674万人と予測され、5人に2人が65歳以上の老人となる。たった1人の若者が4人の老人の面倒をみなければならない。そんなことができるはずがない。
 右を向いても左を向いても老人ばかり。そんな未来になったら、はたして社会が維持できるだろうか?
 日本の人口減少、とくに生産年齢人口(15~65歳)の大幅減少は、間違いなく社会のあり方そのものを一変させてしまう。
 人口減少が進んでいるのは日本だけではない。一部の先進国では、日本と同様に人口減少が進んでいる。しかし、欧州諸国はこの問題を移民で補い、人口減少の規模を抑えてきた。ところが日本は、減少の規模とスピードで他国を圧倒しているのだ。
 そこで、現在の先進国の経済規模ランキングを見ると、これはほぼ人口ランキングと一致している。人口が減れば、これまでの経済規模は維持できないのである。
 それなのに、アベノミクスに象徴されるように、日本政府は経済成長を追い求めている。成長して、いまのGDPを維持するか、あるいは発展させようとしている。安倍首相が「新第3の矢」で、なんと「GDP600兆円」を打ち出したのは、記憶に新しい。
 経済規模を維持し成長を続けるためには、人口減を真っ先に食い止めなければならない。そのため、偏見と時代錯誤に満ちた「女性は子どもを産め」発言が飛び出すことになる。
 もちろん、人口減を移民で補う政策もある。事実上、すでに日本政府はこちらに舵を切っているが、国民の間には根強い反対がある。
 そこで、一部メディアや識者は、「AIやロボットが人口減による労働力不足を解消し、生産性を向上させてくれるから心配ない」と言うようになった。しかし、これは耳障りがいいだけのウソだ。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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