連載117 山田順の「週刊:未来地図」日本経済SOS(2)経済成長は限界 生産性の向上、AI、移民に頼らないでダウンサイズを(中)

そもそも経済成長とはなんだろうか?

 それではここで、そもそも経済成長とはなんだろうかと考えてみたい。私たちは、経済成長を続けないと貧しくなってしまうのだろうか?
 単純に言って、国家経済では、経済成長とはGDPが増えることをいう。GDPが去年より1%増えたら経済は1%成長したということだ。
 1970年代後半までの高度経済成長期の日本では、GDPは毎年7~8%も伸びていた。その後の低成長期でも、毎年2%以上GDPが伸びていた。しかし、いまや1%も厳しくなり、今年の第十四半期ではついに実質で0.2%のマイナスに転じてしまった。
 このマイナスをプラスに戻して、経済成長を続ける方法は限られている。経済学によれば、それは次の3つだ。
(1)労働力の増加(人口増加)
(2)有効投資(有効需要)の増加
(3)技術革新による生産性の向上
 (1)の労働力の増加(人口増加)に関しては、説明するまでもないと思うが、単純にいえば、人口が増えれば消費が増える。そして、消費が増えると生産を増やさねばならないため、ここで生産設備を増やすことが必要になり、(2)の有効投資が行われ、自然に経済は拡大する。こうして、生産物が大量に供給されると、それに伴いまた人口が増えるということだ。
 ただし、人間の数だけが増えても経済は成長しない。人口増とそれに伴う投資によって経済が発展するためには、その前に(3)の生産性が上がる必要がある。生産性が上がらなければ、よりたくさんの生産物をつくることができず、その結果、増えた人口を養うことができないからだ。
 18~19世紀にかけて英国で産業革命が起こったときを振り返ると、たしかに人口増が経済成長に直結していた。英国では産業革命前に「ノーフォーク農法」という農法が開発され、それによって農産物の大量生産ができるようになり、人口増が起こっていたからだ。

AIやロボットに頼って生産性を上げる

 それでは、人口増がなければ経済成長は不可能なのか? 人口減でも経済成長を続けていくことはできないのか? と問いかけてみたい。
 この答えは、「できる」である。なぜなら、人口減を補えないなら、生産性を上げればいからだ。つまり、ものづくりなら、1人あたりの生産個数を上げればいい。たとえば、これまで3人で1時間に10個つくっていたなら、今後は2人で10個つくればいいのだ。
 しかし、これは至難の技である。一朝一夕でできるものではない。
 現在、日本の生産性はアメリカなどの他の先進国に比べたら、著しく低い。だから、これはうまくやれば可能だと一部識者は言う。しかし、これからのデジタルエコノミーを考えると、生産性の向上は、人間ではなくAIやロボットの仕事である。
 となると、人口減による需要の減少は解消されない。ロボットは給料はいらないし、モノやサービスを買ったりしない。
 つまり、ロボットやAIで生産性がいくら向上しても、失業者は増えるばかりで消費は増えず、景気は良くならないことになる。つまり、これまでと同じような量の生産物をつくっても、供給過剰となってさばけない。そこで、これを輸出しておカネを稼がなければならなくなるが、海外市場の開拓はそれほど楽ではない。まして、中小企業ではこれは無理だろう。
 AIやロボットは、私たちの暮らしを救ってはくれないのだ。

ダウンサイズしても生活水準は維持可能

 では、いったいどうすればいいのだろうか?
 いちばん合理的な解決策は、「ダウンサイジング」である。私は、これしかないと思っている。
 人口減は消費者減であるから、いままで以上にモノは売れない。それなら、供給を減らして、そのなかで利益を上げていくほかない。そうしないと供給過剰となり、過当競争になって、デフレに拍車がかかるうえ、多くの企業が共倒れになってしまう。
 これを解消するために、人口減に合わせて供給量を減らすのだ。すなわち、企業数を減らす。経済成長期に、日本には数多くの中小企業が誕生した。しかし、いまや規模を縮小しなければならないので、これらの中小企業のうち、非効率なもの、生産性の向上が見込めないないものから「お引き取り」を願うしかない。大企業もまた、デジタルエコノミーに遅れたところから退場してもらうしかない。
 現在、中小企業では後継者不足が大きな問題になっているが、それを救うなどという政策はやってはいけない。これからは、中小企業、いや大企業といえども、時代に合わなくなったものはどんどん潰していく政策を実行すべきなのである。中小企業に補助金(税金)をつぎ込むなど、愚かな政策の典型と言わねばならない。
 実際のところ、日本全体の企業数は減っている。企業数全体では、1995年の約389万社から、2015年には約352万社まで減っている。これは、市場の自動機能である。「適者生存」(the survival of the fittest)の原則より、弱い者から自然に淘汰されていくのだ。
 市場は自動機能を有している。この自動機能でダウンサイズしていけば、経済規模は縮小しても、私たちの生活が貧しくなることはない。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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