連載124 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(2)どうなる? 米中貿易戦争の行方と日本への影響(了)

想像以上のダメージGDPの4分の1が吹き飛ぶ

 それでは、日本への影響はどうなるだろうか?
 日本のGDPは前記したように約487兆ドルとアメリカの約4分の1、中国の約3分の1である。そして、対中輸出比率は約19%でGDPの約3%に相当する。同じくアメリカも約18%と高い。
 ということは、今回の米中貿易戦争で中国からアメリカへの輸出が減少すれば、日本が受けるダメージは想像以上に大きいものになる。日本の対中輸出品は、中国からアメリカへの輸出製品に使われる部品などの資本財が中心だ。となると、これらが相当落ち込むことを覚悟しなければならないからだ。
 7月11日 のロイターの記事「焦点: 2000億ドル規模の貿易戦争、低成長の日本には大ダメージ」のなかで、シティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏の試算が紹介されている。
 それによると、日本の対中輸出と、中国の対米輸出の36カ月相関は、世界金融危機前の0.8(1.0が完全連動)に迫る0.6超まで上昇するという。関税と報復措置でアメリカの対中貿易赤字が500億ドル減少すれば、日本の中国への輸出減少や設備投資の抑制などを通じて、日本のGDPは0.27%押し下げられるという。
 となると、日本の成長率は1%に満たないのだから、GDPの約4分の1が吹き飛ぶことになる。

もっとも恐いリスクはトランプそのもの

 さらに、心配されるのが、トランプが同盟国だろうと敵国だろうと見境なく制裁関税をかけてくることだ。トランプはなぜか日本でアメ車が売れないことを恨んでいて、この先、安全保障を理由に輸入車に25%の追加関税を課すことをほのめかしている。すでにこのことを正式に表明しているので、その可能性は高い。
 となると、世界3位の対米貿易黒字を稼ぎ、その約8割を自動車で稼ぐ日本は窮地に追い込まれるだろう。6月29日、日本政府は公式にこうした措置は世界経済にとって「破壊的な影響を及ぼし得る」と表明し、アメリカにcolumn1-2措置導入の撤回を求めた。しかし、トランプがこれを聞き入れるかどうかは、まったくわからない。
 日本の自動車産業は、製造拠点をアメリカに移し雇用を大幅に増やしてきたことをアピールしている。しかし、トランプには、どんなファクトも通用しない。
 7月8日のワシントンポスト紙の報道によると、この大統領は世界各国の指導者に個人的な携帯電話の番号を教え、勝手に1対1で話をしているという。そのため、ホワイトハウスの高官さえ知らないことが起こる。また、スタッフがいくら資料やアドバイザリーペーパーを上げても、読みもしないという。
 日本もそうだが、これでは世界中が困惑するのは当然だ。本当に、この先が思いやられる。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。