カナダG7をぶち壊したトランプの暴言
では、ここからは、トランプがどのように世界を破壊しつつあるのか振り返ってみたい。「トランプ世界破壊劇場」は大統領に就任前から始まっているが、今年になって激化している。
すでに、TPP離脱、NAFTA離脱、パリ協定離脱、ユネスコ離脱など、「離脱コース」を歩んできたトランプ・アメリカは、今年になってから世界の枠組み「破壊コース」に突入した。トランプは、関税を武器に世界を相手に貿易戦争を開始したのだ。
その皮切りは、6月の初めの欧州、カナダ、メキシコ、日本、中国などを標的にした鉄鋼・アルミ関税。続いてが、中国を狙った370億ドルの標的関税で、中国との報復合戦は現在継続中である。
そうしたなか、起こるべくして起こったのが6月初めのG7の破壊だった。トランプは、次にシンガポールでの米朝会談が控えていたため「早退」したが、早退後、カナダの若き首相のジャスティン・トルドー氏の態度をツイッターでこき下ろしたのである。
“Justin Trudeau of Canada acted so meek and mild during our @G7 meetings only to give a news conference after I left saying that, ‘US Tariffs were kind of insulting’ and he ‘will not be pushed around.’ Very dishonest & weak. Our Tariffs are in response to his of 270% on dairy!”
「カナダ首相のジャスティン・トルドーはG7会合の最中は弱々しく(meek)影が薄かった(mild)のに、オレがいなくなると突然、記者会見で『アメリカの関税は一種の侮辱だ』とか『けっして蹂躙されたりしない』なんて言い出している。とんでもなく不誠実(dishonest)で弱虫(weak)だ。われわれの関税は、あいつがアメリカの酪農製品にかけてくる270%関税へのお返しなのだ」
なんと、 他国の首相、それも同盟国であり隣国であるカナダの首相を“very dishonest & weak”呼ばわりである。これでは、金正恩を“sick puppy(病気の子犬)”と呼んだのと同じではなかろうか。
さらに、トランプは合意文書を承認しないよう指示したともツイートした。これでは、G7の合意事項などまったく無意味ということになる。
トランプはいま、あらゆる国際的な会議、枠組みに対して不満をぶちまけ、それを破壊しようとしている。このG7では、始まる前に「ロシアもG7に入れるべきだ。私は推奨する」と、突如言い出した。2014年のクリミア武力併合を受けて、G7が総意でロシアを経済制裁している事実を無視したのだ。そうしてさらに、「(ロシアの再加入は)アセット(資産)だ」と強調したのである。
ロバート・デ・ニーロに対して罵詈雑言
カナダG7後の6月10日、俳優のロバート・デ・ニーロは、トニー賞授賞式の冒頭でこう述べた。
“I’m gonna say one thing, fuck Trump!”「ひとこと言わせてもらう、くたばれトランプ!」
この言葉に、場内は割れんばかりの歓声。それが収まると、彼はこう続けた。
“It’s no longer ‘Down with Trump’, ‘It’s Fuck Trump!’.”「もう『トランプを引きずり降ろせ』ではダメだ、『くたばれトランプ』だ!」
そうして、6月11日、デ・ニーロはトロントで行われたホテルの式典で「わたしどもの大統領のバカげた行動をお詫びしたい。恥ずかしいことで、トルドー首相はじめ、G7の関係者に謝罪したい。最低な行為だった」と述べたのである。
これを知ったトランプは、激怒も激怒。シンガポールでの米朝首脳会談が終わった翌日、こうツイートした。
“Robert De Niro, a very low IQ individual, has received too many shots to the head by real boxers in movies. I watched him last night and truly believe he may be ‘punch-drunk’.”「ロバート・デ・ニーロという、この低IQ野郎は、映画のなかでホンモノのボクサーたちにたくさん頭を殴られてきただろうな。オレは昨晩ヤツを見てホントにそう思ったね、あいつはおそらく『パンチ・ドランク(=脳障害)』だ」
トランプらしいツイートといえばその通りだが、大統領が、こんな中学生のような罵詈雑言を吐いていいのだろうか。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com