連載130 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(4)アメリカ第一主義の正体とディープステート(下)

トランプはメモをちぎって捨ててしまう

 トランプ支持者以外なら誰もが知るように、トランプ政権というのは政権の体をなしていない。
 トランプが「フェイクニュース」と呼ぶメディアの報道では、トランプは部下の意見をまったく聞かない。また、下から政策決定に必要な資料が上がってきても読もうとしない。しかも、自身でメモしたペーパーなどをちぎって捨ててしまうというという“トンデモ大統領”ということになっている。
 かつてポリティコが報道したところによると、アメリカには「大統領記録法」という連邦法があり、この法律にしたがって、ホワイトハウスは大統領が書いたすべてのメモや書簡、Eメール、文書の類を保存しなければならないことになっている。
 ところがトランプは、自身のメモはもとより、文書や新聞の切り抜きの上に書き込みをしたりもの、○で囲んだりしたものを、みな捨ててしまうのだという。そのため、ホワイトハウスの記録管理分析官は、トランプが捨てたごみを拾い集め、デスクの上に広げて透明テープを使ってジグソーパズルのようにつなぎ合わせる仕事を毎日行っている。そして、この仕事に耐えきれず、2人の分析官が上司に不満を述べたところ、解雇されてしまったというのだから、本当に驚く。
1回も開かれなかった
国家安全保障会議

 トランプは、重要な会談の準備もしない。歴代大統領は、たとえば他国のリーダーとの首脳会談の前には、そのための会議を何度か開き、また、直前には30分程度のブリーフィングを受けて、それを踏まえて会談に臨んできた。
 しかし、トランプは今回の米朝会談でも米ロ会談でも、それをした形跡がないのだ。
 米朝首脳会談は、東アジアの運命を決める史上初の歴史的な会談だった。普通、これほど重要な会談の前には、閣僚級会議、次官級会議、国家安全保障会議(NSC会議)が何度か開かれる。こうした会議には、各省庁、CIAなどの情報機関から報告書が提出される。そうして、会議の記録は、みなナショナルアーカイブ(米国立公文書館)に政府文書として保存される。そうでなければ、後世に歴史を検証できない。
 しかし、ポリティコの報道によると、米朝首脳会談の前にNSC会議は1回も開かれなかったという。国家安全保障問題担当の大統領補佐官はジョン・ボルトン氏だが、彼は会議の招集をしなかったという。つまり、トランプはそれを命じなかったのだ。
 米ロ会談でもこれは同じだったと思われる。しかも、プーチンと2時間、密室でなにを話し合ったのか? 誰にもわからない。記録も残されていないだろう(ロシア側は別)。そのため、同席した通訳に、議会証言を求める声が上がったのも当然だ。

世界各国の首脳たちと「勝手に電話会談」

 7月7日、ワシントンポスト紙が報じたところによると、トランプは世界各国の首脳たちと「勝手に電話会談」を行い、その内容は側近も知らされていないという。トランプは、自分の携帯電話番号を各国の首脳たちに教えているというのだ。
 前記したメモ同様、大統領の各国の首脳たちとの電話は、記録に残さなければならない。そのため、電話会談はホワイトハウスの情報管理センターが取り仕切り、電話会談の前には十分な事前準備がなされる。しかし、トランプは、この手続きを一切無視しているという。
 はたして、安倍首相はトランプの「勝手に電話会談」仲間に入っているのだろうか? まあ、入っていても、それは電話会談ではなく、「電話連絡」だろう――。
 ワシントンポスト紙は、政府当局者の話として、トランプの事前準備なしの電話会談は、各国の指導者との間で想定外のやりとりを引き起こしていると伝えている。そのため、大統領には言及されそうな問題を整理した文書などを提出しているが、トランプはこれをほとんど読まないという。そこで、困った側近は、本当に必要な情報だけを入れた赤色のフォルダを作っているとか。
 トランプはまるで、予習復習を一切やらないで、怠けに怠ける小学生と同じではないだろうか。
 トランプ政権ほど、クビになった閣僚、嫌気がさして自ら辞めていった閣僚が多い政権はない。それでも、アメリカという国がちゃんと動いているのだから驚くほかないが、このままトランプが大統領を続けていたら、世界は限りなく破壊されるだろう。もちろん、アメリカ自身も。
 トランプだけがよくて、あとはすべて悪くなる世界。想像しただけでゾッとする。
(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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