連載132 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(5)トンデモ発言を整理すれば対処法がわかる(中)

自由、人権、民主主義なんて意に介さず

 トランプは、この世界の普遍的価値とされる「自由」「人権」などの近代思想を軽視している。また、民主主義を擁護する気などまったくない。だから、どんな国のリーダーとも付き合おうとし、会いたがるのだ。会えば、オレさまのカリスマ性で従わせることができると考えている。
 トランプはとくに人権が嫌いだ。昨年、金正恩の異母兄・金正男氏の殺害事件にふれて、「北朝鮮は政府によるはなはだしい人権侵害に直面している」と非難したことがあるが、これは表向きの話。米朝首脳会談が実現の運びになってから、北朝鮮の人権問題にはいっさいふれなくなったことが、人権軽視をよく表している。
 トランプの人権軽視は、アメリカの国連活動に反映されている。ユネスコから脱退し、先だっては、なんと国連人権理事会からも脱退を表明した。トランプは、人権を重視して、難民、移民を積極的に受け入れているドイツが大嫌いで、メルケル首相の移民政策をことあるごとに非難している。
 安倍首相は拉致問題をトランプに懇願している。しかし、トランプはまったく関心がない。北朝鮮に伝えてやることで、日本からカネが引き出せれば、それで金正恩が喜ぶだろうとしか考えていない。よって、いくら頼んでも無駄だ。

ガチガチの人種差別主義者&白人優位主義者

 トランプが移民を嫌うのは、政治的な理由ではない。コストの問題、文化の問題でもない。「人種差別主義者」(racist)、「白人優位主義者」(white supremacist)だからだ。そうでなければ、国境に壁をつくって移民を受け入れないなんて、馬鹿な政策を実行しないだろう。
 なにしろ、彼にとってメキシカンは「麻薬中毒患者でレイプ魔」なのである。
  2018年1月の超党派の議員との移民問題ミーティングでの発言は、トランプの本質をよく表している。
 このとき、民主党のある議員が人道的受け入れの一時的な在留資格(TPS)でハイチにふれたとき、「なぜハイチ人がもっと必要なんだ。追い出せよ!」と発言。ハイチのほか、エルサルバドル、ニカラグアなどの中米・カリブ諸国やアフリカ諸国の人々を指して「肥溜め(shithole)のような(汚い)国の連中」と言ってのけたのだ。こうなると、間違いなく人種差別主義者である。
 トランプは続けて、「ノルウエーのような国からもっと連れてくるべきだ」と言ったので、これで自分が白人優位主義者であることも表明してしまった。
 この7月、キニピアック大学が公表した世論調査結果によると、アメリカ国民の49%がトランプを「人種差別主義者」だと答え、そう思わないとする47%を上回っている。トランプは自分を「人種差別主義者ではない」とことあるごとに否定しているが、自分と同じような人間(人種差別主義者)がアメリカには山ほどいることをよく知っている。

“女好き”も知性・教養のある女性は大嫌い

 トランプはとんでもなく“女好き”である。しかし、知性や教養がある女性は大の苦手で、女性の価値は容姿とスタイルにあると思っている。つまり、本当は女性を蔑視しているのだ。これまでトランプは、知性ある女性をことごとく罵倒してきた。
 まずは、大統領選の指名を争った候補者の1人、元ヒューレット・パッカードCEOのカーリー・フィオリーナ氏について、「あの顔を見てみろ。誰が投票するだろうか。あれが次期大統領の顔だなんて想像できるか? 女性をけなすべきではないと言っても、まさか、冗談だろ?」などと外見を侮辱した。
 大統領選を争った民主党候補ヒラリー・クリントン氏に対しては、「ヒラリーは見た目が大統領らしくないぞ。国民には大統領らしい外見が必要だ」と言い放った。
 民主党の女性議員で宿敵とされるエリザベス・ウォーレン議員に対しては、「ポカホンタス」と呼んで揶揄。2016年6月のツイートで、「時にポカホンタスと呼ばれる間抜けなエリザベス・ウォーレンはキャリアアップのため先住民のふりをした。極めつきの人種差別主義者だ!」と、先住民までいっしょに馬鹿にする始末だった。
 さらに、NBCの情報番組、モーニングショーの司会者ミカ・ブレジンスキー氏から批判されると、ツイッターに、「昔会ったとき、低IQのクレイジーなミカは、フェイスリフト(顔のしわやたるみを取る手術)でひどく血が出ていた」と投稿した。
 海外の女性リーダーのなかでは、とくにメルケル独首相が苦手で、理路整然と反論されるのを嫌い、会談後の記者会見などではほめはするが、これまで公の席で同席してもほとんど目を合わせたことがない。
 これに対して、マクロン仏首相の24歳年上の美人妻ブリジット夫人には、「本当に良いスタイルをしている」などと話しかけている。
 (つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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