連載135 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(6)2期8年2024年まで大統領を続ける「悪夢」(上)

 どんなに知性・教養がなかろうと、大統領をやってはいけないという理由はない。なぜなら、大統領は国民(大衆)が決めるからだ。したがって、11月の中間選挙で民主党がトランプの暴走を阻止できないとなると、トランプは次の大統領選で再選され、2024年まで大統領をやる可能性がある。
 すると、アメリカは“ポピュリズム帝国”と化し、今後もトランプが世界と対立を続けていくことになる。そうなれば、歴史は大きく後退する。今回は、その悪夢のような世界に関して述べてみる。

11月の中間選挙次第で再選もあり得る

 もはやトランプは世界中で嫌われ、一部の国を除いて、どの国からも敬遠されている。しかし、いまだにアメリカが世界覇権を握っている以上、この大統領には従わなければならない。いくら文句を言われても、それに対してなんらかの譲歩を示すしかない。
 トランプには敵も味方も同盟国もなく、「カネ」(=ディールで勝つこと)の頭しかないから、これが続くと、アメリカだけが一時的に豊かになり、全世界が貧しくなる可能性が高い。
 これは、世界の危機だ。
 しかし、まだこのことに対して危惧する声はそれほど上がっていない。まさか、アメリカ人はトランプに8年も大統領をやらせないだろう。いくらなんでも、いずれトランプはパワーを失うだろうと思っているからだ。
 しかし、今年の11月の中間選挙で、民主党が巻き返せず、共和党が勝ってしまうと、どうなるだろうか?
 トランプの長期政権が実現しかねない。共和党は完全にトランプに乗っ取られ、次の大統領選でも再選されて、2024年まで大統領をやる可能性が十分にある。
 トランプの支持基盤は強固だといわれている。彼がなにをしようと、支持する人間がなんと4割はいる。そのため、共和党議員の多くはトランプを嫌っていても批判はしない。トランプに反撃されて、トランプ支持者の票を失うのが怖いからだ。

大衆迎合のポピュリズムの扇動者

 トランプが大統領になって私は、アメリカ人の一部(トランプ支持者の多く)は、単なる“大衆”だと思うようになった。アメリカ人に対する敬意がほぼ消滅した。
 アメリカ人もまた、「パンとサーカス」さえあればいいのだ。政治的になにが正しいかなど、彼らにとってはどうでもいいのである。
 トランプは貿易戦争で損害を被る農家へ最大120億ドルを支援すると発表した。これに、トランプ支持者は大いに喜んだ。気をよくしたトランプは、7月26日、イリノイ州の鉄鋼労働者の前で演説し、「われわれは白旗を振らない。振るのはわれわれの愛する星条旗だけだ。アメリカは戦い、勝利している。われわれは勝利しているのだ」と述べると、大喝采を浴びた。
 まさに、ポピュリズム。トランプは大衆迎合のポピュリズムの扇動者である。
 トランプがやっていることは、ラストベルトにいる支持者たちを徹底して喜ばすこと。彼らのフィーリングをベースにして世界相手に喧嘩を売り、世界が妥協点を出してくると、「ほうら見ろ、おれはやったぞ」と、支持者に向かって叫ぶのだ。
 こうして、アメリカの民主政治は乗っ取られ、ポピュリズムはいまやファシズムになりつつある。もはや、アメリカの政治に理念や主義というものはなくなった。人権も自由も消え失せようとしている。あるのは、トランプが考えるディールと利益の追求だけだ。
 これまでのアメリカの政治は、民主主義に基づいて、インテリや識者、政治家が大衆を先導していくというかたちを取っていた。しかしいまや、そんなかたちは消え失せようとしている。

枠組みは壊れ、19世紀の帝国主義に逆戻り

 それでは、トランプはいったい世界をどうしてしまうのだろうか?
 これまでのトランプを見ていると、トランプは1対1の外交しかやろうとしない。彼のアタマの中には多国間の枠組みとか、国際協調というものがない。したがって、このまま行けばこれまでの世界の基本的な枠組みは、じょじょになくなっていくだろう。
 トランプは、国際連合を軽視している。よって、国連はいずれ機能不全に陥り、主要国の協調外交を支えるG7もなくなってしまう可能性がある。地球温暖化の枠組みであるパリ条約、太平洋の経済連携TPPから離脱したトランプだから、WTOやIMFなどからも離脱するかもしれない。離脱しなくとも、これらの機関は空洞化していくだろう。
 安全保障面でも、トランプは枠組みを崩そうとしている。万が一、トランプがロシアにもっと寛容になり、クリミア併合を容認して経済制裁を解き、同盟国のような扱いをするようになったら、その時点で、NATOは機能しなくなる。欧州諸国はEUで統一されている必要がなくなり、バラバラになってしまうだろう。
 そうなると、ドイツはドイツとして、フランスはフランスとして、アメリカと1対1で交渉するようになる。こうなると、欧州はまるで19世紀の帝国主義時代に戻ったようになる。列強は互いに反目し、また手を結び、状況はくるくる変わるのだ。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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