日々のニュースでつい見落としてしまうと、なぜそうなったのか、あとからわからなくなってしまうことがある。日本の移民問題はその典型だ。じつは、日本は移民を受け入れていないというのは過去の話で、もう約128万人もの外国人労働者が入っているのだ。そして、この6月15日、政府は「外国人材の受け入れ拡大」の方針を閣議決定した。
そのため、いま再び移民問題が議論されている。
今回の政府の方針決定により、今後ますます外国人労働者が増え、気がついたときには日本も欧米と同じような状況になっているのだろうか? 人口減による経済衰退は解消されるのだろうか?
日本の移民問題の本質について考える。
2025年ごろまでに50万人超の移民を受け入れる
6月15日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定して公表した。これは、経済成長戦略の方針を策定するものだが、そのなかで注目されたのが、外国人労働者の受け入れ問題だった。
かねてから、政府はもっと多くの外国人労働者を受け入れると表明してきたが、これが事実上決まったのである。その内容は、「就労を目的とした“新たな在留資格”を創設すること」と「在留期限を延長して“家族帯同”を認める」ということだった。
では、新たな“在留資格”と“家族帯同”とは、具体的にどういうことだろうか?
これまで、外国人労働者の受け入れは、主に「外国人技能実習制度」(1993年創設)によって行われてきた。この制度の主旨は「外国の若者に技能を修得させて母国の発展に活かしてもらう」ということだったが、じつは、日本の若者が嫌がってしなくなった仕事を、安価で使える外国人(といっても途上国の若者)に押し付けるものであったことは書くまでもないだろう。
したがって、製造業や建設業の現場に、途上国の若者たちがやって来た。ただし、この若者たちは、当初は3年間の技能実習を終えたら帰国することになっていた。しかしその後、この制度は何回か改変され、業種によっては5年に延長された。そして今回、最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに5年間“在留資格”を与えることになったのである。
つまり、最長10年間の滞在が可能になったのだ。
また、“家族帯同”に関しては、これまでは認められなかった。しかし、今後は原則としては認めないとしても、滞在中により高い専門性が確認されれば「専門的・技術的分野」の在留資格に移行でき、その際は家族を呼び寄せてもいいということになったのである。
となると、これは、事実上の「移民政策」であり、「移民受け入れ表明」である。なぜなら、今回の方針が秋の国会で決定すれば、建設・農業・介護・宿泊・造船の5業種を対象に、2019年4月から新たな在留資格と家族帯同が実施されるからだ。これは、いわゆる外国人による「単純労働」を認めるもので、移民を前提にしなければ成り立たない。実際、政府は「2025年ごろまでに50万人超を受け入れる」と表明した。
トランプ大統領にまで小馬鹿にされる
ところが政府は、今回の決定を「移民政策とは異なる」とメディアに発表した。「これは移民政策ではない」と言うのだ。したがって、どのメディアも、このニュースの見出しに「移民」という文字は使わなかった。
日本国民なら肌で感じていると思うが、この国には根強い移民反対論がある。多くの日本人が、日本に外国人がこれ以上入ってくるのを嫌がっていると信じられている。だから、政府はこう言わざるを得なかったとはいえる。
しかし、これは政府、いや日本人全体の「ご都合主義」ではないだろうか。移民はイヤだが労働力としての外国人は来てほしい。こんなことで、本当にいいのだろうか?
先日のカナダG7の舞台裏で、トランプ大統領は安倍首相に、こう言ったと伝えられている。
“Shinzo, you don’t have this problem, but I can send you 25 million Mexicans and you’ll be out of office very soon.”
「シンゾウ、お前にはこの問題(=移民問題)はないが、私は2500万人のメキシカンを日本に送りつけることができる。そうすれば、お前はあっという間にオフィスから出て行かなければならないぞ(=首相をやっていられなくなる)」(ウォール・ストリート・ジャーナル電子版、6月15日)
トランプがどんな意図でこう言ったのかはわからない。ただ、この大統領が移民を悪だと考えているのは、これまでの言動からたしかである。なにしろ、メキシカンは「レイプ魔で麻薬患者」と言い放った人物だ。
したがって、安倍首相は痛いところを突かれたと言うほかない。話はそれるが、トランプの日本に対する認識はこの程度、また、日本人もメキシカンも小馬鹿にしているのは間違いないだろう。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com