(11面から続く)
なぜ移民を受け入れる?賛成派の「ご都合主義」
では、賛成派はどう考えているのだろうか? 賛成理由は、大きく分けると、次の3つになる。
(1)雇用対策として移民が必要。とくに建設業や飲食産業で人手不足が起きているので、移民でこれを解消できる
(2)少子高齢化で人口が減るので、移民で補うしかない
(3)人口減社会では経済成長できない。経済成長を維持するためにも移民は必要だ
この理由もまた、たしかにそのとおりである。しかし、この賛成派の理由には大きな問題がある。なぜなら、これこそが「ご都合主義」だからだ。
要するに移民を人手不足、人口減の数合わせ、経済成長を維持するための労働力だけとしてか捉えていないからだ。
現代では、人種差別は最大のタブーであるから、誰もはっきりとは口にしない。しかし、移民賛成派が思っているのは、「日本人がイヤがる仕事は、貧しい中国人や東南アジアの人間にさせよう。彼らなら喜んでやってくれるだろう」ということだ。
アメリカでメキシコからの移民労働者が必要とされたのは、たとえばカリフォルニア州で、農業、建設業、飲食業などの労働者が大量に不足したからだ。ロサンゼルスのレストランにメキシカンがいなかったら、誰が皿洗いをするのだろうか?
同じく、フランスは旧植民地からの移民労働者を大量に受け入れた。そうしなければ、誇るべきフランス文化が衰退してしまうからだ。誰がワイン畑で葡萄の収穫をするのだろうか? 結局、フランス人は「フランスの若者がイヤがる仕事は、旧植民地の連中にさせればいい」と考えたのだ。
これは、イギリスもドイツも同じである。どの国でも、移民が「3K労働」(「きつい」「汚い」「危険」の3つ)の担い手と必要とされたのだ。
その意味では、移民反対派より、移民賛成派のほうが、じつは「人種差別主義者」と言っても過言ではない。
問題の本質は「人口ピラミッド」がイビツなこと
そしてさらに問題なのは、移民反対派も移民賛成派も、この問題の本質をはっきりとわかっていないことだ。
人手不足だから、また、人口減を止めるために移民が必要なのではない。人手不足や人口減は、経済規模を縮小していけば、少なくとも現状維持は可能だから、移民に頼らなくても解決する方法はある。
しかし、人口減により若い世代が減り続け、その逆に高齢人口が増え続けると、現在の社会は維持できなくなる。これこそが、本当の問題なのである。
年金、医療費などの社会保障を支える若年労働者がいなければ、いまの日本社会は維持できない。つまり、移民問題の本質は、人口ピラミッドが「壺型」というイビツな構造になっていることにある。
現在、日本の人口減は急速に進んでいて、毎年約30万人も減り続けている。とくに少子化で、若年人口はどんどん減っている。このままいくと、本当に近いうちに現在の社会保障は維持できなくなる。
話を単純化して年金だけで考えると、年金を支払う人よりも年金を受け取る人のほうが多いという状態がこのまま続けば、どうなるだろうか? 単純に年金額を減らすしかなくなるだろう。
となると、この先、年金に加入する若者はいなくなる。それでは困ると法律で規制(完全税金化)すれば、国民負担率は跳ね上がり、日本人の暮らしはますます貧しくなっていく。
はたしてこんな国に、若者がとどまるだろうか? 私は早晩、日本の若者は、賢い者から順に、この国を出ていくと思っている。
すでに、多くのシルバー世代の富裕層が日本を出ている。また、語学力と一定のスキルを持っている中年世代も、自分の老後と子どもに将来的にかかってくる負担を考えて、海外移住を選択している。
つまり、移民を受け入れ、人口ピラミッドのイビツを直さないかぎり、日本社会はいずれ崩壊してしまうのである。労働力不足はロボットで補えるとする人がいるが、ロボットは年金も税金も払わない。このように考えてみれば、今後、日本がやらなければいけないことは、不毛な移民論争を止め、どのように移民を受け入れるかを早急に決めることだろう。
移民論争に欠けている「来る側」の立場
さて、現在の移民論争にもうひとつ欠けている点は、移民側、つまり来るほうのことをまったく考えていないことだ。賛成派も反対派も、日本は先進国だから、途上国からは必ず移民が来るものと考えて、来る側のことまで考えていない。
つまり、いまの日本が移民するのに値する国かどうか? 世界に、日本に来て暮らし、日本人になりたい人間がどれほどいるか? ということである。
そこで、これまでの移民論争を振り返ると、日本が受け入れたい移民は、次の3種類であることがわかる。
(1)富裕層(お金持ちで日本に投資し、お金を落としてしてくれる人々)
(2)高度人材(高いスキルを持つ技術者、科学者、ビジネスエリートなど)
(3)単純労働者(日本人の人手が足りない建設労働、店舗労働、介護労働などに従事してくれる人々)
ここであえて書くまでもないが、この3つのうち(1)(2)は、まったくと言っていいほど日本にやって来ない。そこで、最後の(3)だけをイヤイヤ受け入れているわけだが、こんな身勝手な考えでは、いずれ、誰もやって来なくなる可能性がある。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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