連載141 山田順の「週刊:未来地図」皇帝は人種差別が大好き(上)じつはトランプと習近平はソックリだった!

 米中貿易戦争は、トランプ大統領も習近平主席のどちらも譲らず、これからが本番という雰囲気になってきた。トランプは先週、中国からの輸入品2000億ドル相当に対する関税を10%から25%に引き上げることをUSTR(米通商代表部)に指示。これに対し習近平は、アメリカからの輸入品600億ドル相当に新たな関税を課すことを表明した。
 そこでいま、この貿易戦争の行方に世界中の注目が集まっているが、面白いことに気づいた。それは、2人の“皇帝”が、ある点(政策)において、すごく似ているということだ。
 これは貿易戦争とは直接には関係しないが、驚くべきことに2人とも徹底した移民嫌い、人種差別主義者といっていい。つまり、自分の国がなにで成り立っているかを理解していないのだ。

アメリカの移民は中国では“国内移民”

トランプは8月4日、中国などに対する関税措置は「予想よりはるかに好調に機能している」と、またしても自画自賛のツイートをした。
 「関税はアメリカの鉄鋼産業に非常に有益な影響をもたらしている。アメリカ国内で次々と工場が新設され、鉄工所では作業員たちが再び仕事に励み、莫大なドルが国庫に流れ込んでいる」「関税によってアメリカは、いまよりもはるかに裕福な国家となるだろう。賛同しないのはバカ者だけだ」
 中間選挙に向けてのアピールということもあるが、この声明は度がすぎている。関税が国を豊かにするはずがないし、また、アメリカ経済を本当に支えてきたのは、ラストベルトの白人労働者ではない。移民だからだ。
 世界からアメリカに絶え間なくやって来る移民。彼らがこれまで、アメリカの産業と経済を支え、アメリカの発展の原動力になってきた。
 しかし、トランプはそれを言わない。言わないばかりか、移民を敵視し、排除する政策を掲げてきた。
 じつは、この構造は中国も同じだ。こう書くと、驚かれるかもしれないが、これは本当である。普通に考えれば、中国には移民はいない。中国は、海外からの労働力を必要としてこなかった。国内に大量に安い労働力を抱えていたからだ。
 ただ、この大量に安い労働力というのが、じつは“国内移民”なのだ。中国は“国内移民大国”なのである。

「外地人」の「低端人口」を追放せよ

 トランプは移民が嫌いである。これ以上、アメリカに移民は来てほしくないと、メキシコ国境に「壁」を建設する政策を推し進めている。もう本当に壁はできていて、設置が始まろうとしている。トランプはとくに貧しい移民輸出国を蔑み、たとえばハイチを「shithole country」(便所国家)と呼び、不法移民の親子を無理やり引き離した。
 習近平も同じである。昨年秋に、北京から「低端人口」(ディートアンレンコウ)を追放する政策を始めたのである。「低端人口」とは、「低級な人々」「下層の人々」を意味する俗語。
 北京には2通りの人々がいる。「外地人」(ワイデイレン)と「本地人」(ベンデイレン)だ。北京市の2017年末の人口は約2170万人で、このうち北京市に戸籍を持つ人は1159万人で、それ以外は北京市に戸籍を持たない人か、あるいは無戸籍者である。
 中国の戸籍制度が、「都市戸籍」と「農民戸籍」に分かれていて、基本的に農民戸籍者は都市では住民扱いされないことはご存知だと思う。
 この農民戸籍者のことを「外地人」と呼び、「本地人」は彼らを徹底して差別している。市内でなにかトラブルが起こると、本地人は「外地人は出て行け」と平気で言う。この外地人が、中国の“国内移民”なのである。
 外地人は、本地人と結婚して北京市に帰属している人と、そうでない農民戸籍のままの「出稼ぎ労働者」に分かれる。この出稼ぎ労働者がとくに「低端人口」と呼ばれている。出稼ぎ労働者は、ひと昔前は「農民工」と呼ばれていた。しかし、都市に出てきて農民をやめてしまい、またその子供たちが成長して大人になってきたので、「低端人口」という言葉が生まれたのである。

いきなり退去命令でドヤ街を次々に撤去

 習近平皇帝は、「低端人口」が大嫌いである。なぜなら、彼らは固まってドヤ街で暮らし、いつもみすぼらしい格好をしているからだ。
 彼らは、都市住民がやらない「3K」仕事(きつい、汚い、危険)をやって生計を立てている。北京市には、「低端人口」向けの簡易宿所が数多くある。
 2017年11月、北京市大興区にある簡易宿泊所を中心としたドヤ街で大火事が起こった。そして、出火から数時間後、「低端人口」の追放策が始まった。
 この火事の1カ月前、トランプが北京を初訪問し、習近平は中国始まって以来の大歓待で、この大統領を歓迎した。そうした高揚とした気分のなか、習近平は北京市書記・蔡奇と組んで、“国内移民”を叩き出すことを決めたのである。
 その方法は容赦なかった。
 「48時間以内に退去せよ」という命令が発せられ、時間が来るとブルドーザーが何十台もやってきて、ドヤ街は跡形もなく壊された。これをきっかけに、北京市のドヤ街はほとんどが壊され、追い出された人々は、寒風のなかに行き場を失ったのである。
 中国とはこういう国である。
 「低端人口」の追放と平行して、そのほかの違法建築の撤去と商店などの看板類の撤去も始まった。これで街の景色は一変した。2018年の正月には、外国人観光客に人気の后海のカフェバー街の店も多くが消え失せ、街の看板もなくなってしまったのだ。
 2018年の正月に北京に行った私の知人は、昔よく通った后海のカフェがなくなっていたのに驚いたと言っていた。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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