連載143 山田順の「週刊:未来地図」皇帝は人種差別が大好き(下)じつはトランプと習近平はソックリだった!

じつは戸籍による差別さらに強化された

 習近平は2013年の就任時、戸籍改革を進めると宣言したが、実質は地方政府に丸投げした。2016年9月、当局が戸籍制度を一本化し、「住民戸籍」に転換するとしたのに合わせて、各都市は段階的に区別をなくしていくことになった。
 それで、南京市が始めたのが「積分落戸」(ジーフンルオフー)という新制度だ。
 これは、南京市の戸籍の取得希望者に対して、得点で戸籍を与えるかどうか決めるというもの。南京市では「南京市積分落戸指標」として15項目を定め、その合計で100点以上を獲得した者に南京市の戸籍を与えることにした。

 では15項目とは具体的にどんな内容なのか? 以下、3例を記してみよう。
 [居住期間] 南京市での居住1年あたり+2点。ただし、+20点を超えない
 [学歴]博士号取得者は+140点、修士号取得者は+100点、大卒は+80点、短大・専門学校卒は+60点、高卒は+40点。それ以下は0点
 [技術技能レベル]資格によって+40点から+120点
 どうだろうか? これは、どう見ても合法的な人種差別政策ではなかろうか。南京市が必要なのは100点以上の人間だけ。要するに100点を取らなければ、市民扱いしない。出て行ってくれというものだからだ。トランプは目に見える国境の壁を築こうとしているが、中国は「目に見えない壁」を築いたのだ。
 この「積分落戸」は、2018年1月から北京市でも始まった。南京市と同じように資格は厳しく制限され、指標は9項目とされた。また、上海市でもこの5月から始まった。
 しかし、戸籍が都市であろうと農村であろうと、また、新しい戸籍になろうと、中国の戸籍には必ず「档案」(ダンアン)という個人履歴が付いている。中国人なら誰もが、小学校入学以降は、学校では教師による評価、職場では上司による評価が記録される。そればかりか、言動や旅行歴、どんな思想の持ち主かに至るまで記録されていく。
 中国では、この「档案」によって、ほぼすべてが決まるようになっている。中国は人間管理社会なのである。
 だから、中国人は成功すると国を捨て、海外に出て他国のグリーンカード取得に走ることになっている。

移民がいないとやはり国は成り立たない

 このように見てくると、トランプと習近平がやっていることは、非常によく似ている。トランプは白人優位主義によってアメリカを分断統治し、習近平は徹底した差別主義により中国を管理統治しようとしている。
 ただし、習近平は、今年の「春節」(中国の新年)後、「低端人口」追放政策を事実上、放棄してしまった。「低端人口」を黙認するようになったのだ。
 それは、北京市民や企業から政府にクレームが殺到したからだ。「本地人だけでは北京はやっていけない。外地人、とくに低端がいないと、誰がゴミの回収をやるのか、誰が工場で働き、誰が宅配便を運ぶのか」という声が高まった。それで、“赤い皇帝”もやっと気がついたのである。
 その結果、「低端人口」は職場復帰し、后海のカフェバー街も街の看板も元に戻った。
 はたしてトランプは気がついているのだろうか? わかっていても知らないふりを決め込んでいるのだろうか?
 移民がいなければ、たとえばロサンゼルスのレストランで誰が皿洗いをやるのか? ニューヨークで誰がゴミ回収車に乗ってゴミを回収するのか?
 移民を排斥するより、自分たちの社会がはらんでいる矛盾を解消するほうが先である。それを移民のせいにして、全てを押し付けるのは、政治の勝手としか言いようがない。
(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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