トランプの制裁関税第3弾に対し、中国は反発して報復関税を発令、米中貿易戦争は激化の一途をたどっている。そこで今回は、中国の「自由貿易を守る」という主張がいかにおこがましいかを説明する。そうして自由貿易について改めて考え直してみる。そうすれば、米中戦争のなかで日本がどうすべきかがおのずと見えてくる。
もはや私たちはアメリカと同じく、「反中」で行くべきなのだ。安倍首相は訪中する予定だが、習近平と友好ムードをつくる必要などない。
「アメリカは勝利するだろう」とポンペオ
すでに何度も書いてきたように、米中貿易戦争は米中による世界覇権戦争だから、中国が覇権挑戦を諦めるまで終わらない。よって、今後、何年もこの戦争は続く。
それを北京はわかっているが、習近平は仕掛けられた関税戦争から降りるわけにはいかない。中国人としてはメンツを守らなければならないから、トランプの制裁関税第3弾に対して即座に報復措置を講じることになった。しかし、9月24日、北京が発表した報復関税は、たったの600億ドル。米国産LNG(液化天然ガス)や一部の航空機などをターゲットにしていたが、手詰まり感は否めなかった。
しかも、北京はさらにほかのカードを切らなければならない現実に直面している。それは、今後、中国を去る外資系企業がどんどん出てくるということだ。もちろん、日本企業も含まれる。すでに「脱中国」は始まっているが、米中関税戦争が、この流れを加速させる。となると、中国政府はなんとしてもこれを阻止しなければならない。そういう状況を見越してか、マイク・ポンペオ国務長官は、23日に放送されたFOXニュースのインタビューで、「アメリカは勝利するだろう」と明言した。そしてこう付け加えた。
「(われわれは)中国に行動の変化を強いるような成果を得ることになる。強国、グローバルな強国になりたいのであれば、透明性や法の支配(が必要だし)、知的財産を盗んではならない」
このポンペオ発言が、今回の米中戦争の本質をはっきり表している。アメリカは、中国は透明性も法の支配もない国、すなわち対等に貿易をするに値しない国と考えているのだ。
ついに習近平自身が「自由貿易」を口にした
ところがここまで、中国はアメリカに対して、世界に対してなんと言ってきただろうか? トランプが制裁関税第1弾を発表し、米中貿易戦争が勃発した今年3月、李克強首相は記者会見して、次のような主旨のことを述べた。
「中国は自由貿易を守り続ける」「中国の基本的な政策は開放政策である。モノの貿易の関税は世界で中程度の水準だが、今後は全体の関税率をさらに下げる」「サービス業の外資参入も自由化していく」「米中が貿易戦争になれば双方に利点がなく、勝者はいない」
このなかの「自由貿易を守り続ける」は、以来、中国高官の口癖になった。そのため、あたかもアメリカが自由貿易を破壊して保護主義に走り、中国が自由貿易を守っているような印象を世界に与えてきた。ただ、中国の“皇帝”習近平主席は、この言葉を使わなかった。ところが、先日、ロシアのウラジオストクで行われた東方経済フォーラムに出席し、安倍首相と会談すると、「(中国と日本)双方は多国間主義と自由貿易体制、そしてWTOのルールを守り、開放型の世界経済づくりを推し進めるべきだ」と述べたのである。これは明らかにアメリカを意識した発言で、習近平自身が「自由貿易体制を守る」と言い切った点で画期的だった。
日本抱き込み路線に転換した中国
なぜ、これまで習近平は李克強のように、「自由貿易を守る」と発言しなかったのだろうか?
それは、中国自身が自由貿易などしていないことを知っているからだ。したがって、そんなことをトップが公に言えば、中国国内を自由貿易に対応するようにつくり変えなければならなくなる。そうすれば、北京の一党独裁、社会主義路線は崩れてしまうのである。このウラジオストク会談で、安倍首相は10月下旬に北京を訪れることを約束した。中国は対中路線を転換し、アメリカに追い詰められている事態を、トランプと親しいとされる安倍首相を抱き込むことで打開しようと画策しているのだ。そのための「自由貿易発言」であり、これにより、あたかも中国と日本が同じ自由貿易をする仲間のように思わせようとしている。
この日中首脳会談の内容は、当日夜のCCTV(中国中央電視台)のメインニュースと、翌日の人民日報の1面で紹介された。これは、国民に対して、これからは日本との関係を改善するというメッセージであり、安倍訪中への地ならしだった。
行われているのは自由貿易ではなく管理貿易
では、ここから自由貿易とはなにか? という本質的な問題を考えてみよう。ウィキペディアでは、次のように述べられている。
《自由貿易は、関税など国家の介入、干渉を排して生産者や商人が自由に行う貿易のこと。19世紀に重商主義に基づく保護貿易に対して、イギリスのアダム・スミス、デヴィッド・リカード、フランスのフランソワ・ケネーらによって唱えられた》
また、国語辞典の「大辞林」では、次のように述べられている。
《国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態》
ということは、国家同士が関税をかけ合うなどもってのほか。また、交渉して制限や保護を加える、いわゆる貿易協定を結ぶなどというのは自由貿易ではないということになる。国家が輸出入品目、数量、相手国、決済方法などに口を出し、それを法で定めたら、これは自由貿易ではなく「管理貿易」(government-managed trade)である。つまり、中国の「自由貿易を守る」という主張は「おこがましい」のひと言であり、アメリカの制裁関税のふっかけも、自由貿易からは逸脱した野蛮な行為なのである。
実際のところ、自由貿易に条約など必要ない。その意味でいけば、FTA(Free Trade Agreement: 自由貿易協定)などというのは言葉のマジックで、実際は管理貿易協定にすぎない。またアメリカが一抜けをして、その結果、日本がまとめたと威張っているTPP(Trans- Pacific Partnership Agreement: 環太平洋パートナーシップ協定)も、関税や貿易障壁を細かく定めた管理貿易協定にすぎない。純粋な自由貿易とは、一国が単独でなし得る政策である。他国と交渉して、貿易障壁の撤廃や関税率を決める必要などないのだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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