連載160 山田順の「週刊:未来地図」 中国がアピールする (下) 「自由貿易体制を守る」のおこがましさ

中国の経済力、国力を削ぐことが目標

 このように見てくれば、アメリカが中国に仕掛けた貿易戦争が自由貿易を目指すことではないことは明白だ。もちろん、アメリカは中国の国内市場をこじ開け、WTOルールを守らせようとしている。しかしそれ以上に、中国の経済力、国力を削ぐことが目標だ。
 中国が、国際経済にタダ乗りしてこれ以上拡大するとどうなるだろうか? 人口は中国が14億人で、これはアメリカの約4.2倍だから、このまま経済力をつけたら大変なことになるのは明白だ。人口が支えるGDPは、2017年の時点で、中国はアメリカの63.2%まで追い上げている。となると、このペースが続けば、2023年から2027年の間のどこかで、中国はGDPでアメリカを抜き、世界ナンバー1の経済大国の座に着くことになる。そんなことが許せるだろうか?
 経済力の脅威とともに、アメリカが問題にしているのは、知的所有権である。つまり、先端技術の技術革新で負けることは、アメリカの決定的な衰退を招く。ところが、すでにその兆候があるのだ。国連の世界知的所有権機関(WIPO)によれば、各国の先端技術の指標となる国際特許出願件数は、1位がアメリカで5万6624件だが、2位の中国は4万8882件まで追い上げている(2017年度)。しかも、これを企業別に見ると、1位が中国のファーウェイ(華為)で4024件、2位も中国のZTE(中興通訊)で2965件。3位にようやくアメリカのインテルが来て2637件である。トランプ政権がファーウェイとZTEの2社をターゲットに制裁措置を講じたのも、このためなのである。

北京政府の甘言に乗るのは危険

 トランプの制裁関税第3弾は、関税率10%で実施されたが、中国が報復したため、2019年1月以降は25%に引き上げられるのが確実になった。さらにトランプは、第4弾として2600億ドルを用意していると表明しているので、今後、米中が協議を通じて事態を打開することはあり得ないだろう。問題は、中国がどこまで持ちこたえられるかである。いずれにしても日本は、状況の推移を注視しながら、次の手を打っていかねばならない。こんな状況で、アメリカの言うことをすべて聞きつつ、中国とも仲良くやっていくなどということはあり得ない。
 日本は、曲がりなりにも資本主義国家、民主体制なのだから、中国の「自由貿易体制を守る」と言うおこがましさを許容してはならない。そこまで言うなら、資本を自由化しろと、安倍首相は習近平に言わねばならない。
 もはや、この状況では、安倍首相の「世界中とお友達路線」は成り立たない。日中友好は口だけにして、アメリカとともに、中国の力を削ぐことを検討・実施すべきだろう。日中友好は国民レベルの話で、北京政府と友好を演じる必要はない。安倍政権が北京の甘言に乗らないことを、切に願う。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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