連載162 山田順の「週刊:未来地図」EV(電気自動車)時代はやって来ない (中)  トラブル続出! 怪しくなってきた中国のEVシフト

異物混入による燃料電池の自然発火

 最近、中国の経済誌、財経(2018年9月2日発行)に、「際立つEV(電気自動車)の信用危機」という記事が載った。この記事は、ネットで話題になったEVの自然発火事故を受けてのもので、消費者のEVの安全性に対する信頼が損なわれていることを指摘していた。
 2018年7月~8月、中国では相次いでEVの自然発火事故が発生した。以下、主な事故を列記してみると、次のようになる。

・北京市のEV充電スタンドで、南京金竜客車(中国最大のバスメーカー)が製造したEV貨物配達車が自然発火
・深セン市の充電スタンドで、北京と同じくEV貨物配達車が自然発火
・威馬汽車(上海市のEVメーカー)の研究施設内でEVが自然発火
・成都市で力帆新能源(EVメーカー)が製造したコンパクトEV「力帆650EV」が路上発火
・銅陵市のトンネル内で、安凱客車(バスメーカー)が生産したEVバスが自然発火

 これらの自然発火事故のほとんどは、「燃料電池の問題」と指摘されたため、財経の記者は、燃料電池のベテラン技術者を取材、次のような話を引き出している。
 「電池の自然発火が起きるとしたら、もっとも可能性がある問題は、バッテリーのセル内部素材の純度が足りず、異物が多すぎることが原因です」。製造・生産過程で異物がセルの内部に混入すると、充電の途中で異物が隔離幕を突き破り、それにより電池の局部ショートが起こり、自然発火するのだという。つまり、中国製の電池は、技術レベルが低く、性能が悪いとうことだ。
 電池というのは、スマホを使っている人ならわかるはずだが、充電を繰り返すと劣化する。中国製に限らず、EV電池は、こうした点がまだ克服されていないという。
充電場所の不足とかかりすぎる充電時間

 EVは電気で動く以上、電池が生命線である。その電池は充電しなければ使えない。そこで、さらなる問題が発生している。知人の北京駐在員によると、「最近、地元メディアはEVトラブルを報道するようになった」とのこと。
 「北京では充電場所が不足しているうえ、そこに行ってもガソリン車が止まっていて、なかなか充電できないという訴えが急増しているというのです」
 中国の「充電ポール」の設置台数は約45万本。そのうち約4万本が北京にあるとされるが、これがまったく足りていないのだそうだ。そのため、いつ行っても充電ステーションはほぼ満車。しかも、駐車している車のほとんどがガソリン車で、充電ポールは故障しているものも多いという。そのため、北京市当局は、今年5月に「北京市自動車停車条例」を施行し、ガソリン車は電気自動車専用の駐車スペースを使ってはいけないと条例で決めた。しかし、この条例は守られていない。
 日本でも問題になっているが、EVは充電するのに時間がかかる。最低でも1時間は充電しないと、ある程度の距離は走れない。それなのにこれでは踏んだり蹴ったりである。
 ただし、中国では一部で、この難問を解決したところがある。それは充電ステーションで充電するのではなく、丸ごと電池を交換してしまうという荒技だ。杭州の充電ステーションでは、充電切れの車がやって来ると、作業員が機械を使って電池を取り外し、充電済みの電池と交換することで、充電待ちをなくすことに成功したという。
 しかし、それでも問題は残る。これをするには、人手が必要で、さらに常時何百もの電池を充電して保管していなければならないことだ。

補助金がなければ誰も買わないという現実

 さらに、中国EVに関しては、もっと深刻な問題が指摘されている。それは、いくらEVが売れているとはいえ、市場経済のなかで売れているということではないということである。もっと端的に言うと、もし補助金がなければ、EVなど高くて、ほぼ誰も買わないということだ。
 テスラは、今年末に発売予定の初めての大衆向け新型EV「モデル3」の価格を3万5000ドル(1ドル110円で換算して約385万円)に設定している。しかし、これすら、まだ高いという声がある。つまり、ここまでEVが普及しないできた大きな原因が、価格の高さである。
 ところが、中国のEVは、たとえば北京汽車の「ECシリーズ」は、現在、北京では5万5800元(1人民元16.5円として約92万円)で売られている。もちろん、これは補助金が出ているからで、補助金抜きだと、なんと18万8000元(約310万円)もする。つまり、この補助金がなければ、中国は世界のEV販売トップになどとうていなり得ないのである。北京汽車の「ECシリーズ」は2017年4万台以上売れたというが、それは、ここまで大盤振る舞いの補助金が出たからにすぎない。
 EVへの補助金は中央政府だけでなく地方政府からも出ている。そのため、EV価格のほぼ3分の2は補助金という地域もある。

難問は大量の電力をどうやって供給するか?

 北京は、このEV補助金を来年から現在の水準の3分の1にすると伝えられている。さらに、補助金を得るには1回の充電で少なくとも150キロメートル走行が可能であることが求められているが、これを200キロメートル走行にするという話も出ている。しかし、そんなことをしたら、EVシフトは一気に減速、EVはほとんど売れなくなってしまうだろう。しかも、いまやトランプのアメリカが仕掛けてきた貿易戦争に、中国政府は追い詰められている。
 このように見てくると、EVシフトはそう簡単にはいかないと思えてこないだろうか? 中国の状況を見れば、電池生産でよほどのイノベーションが起こらない限り、「2030年でクルマの4割がEV」はとても達成できないだろう。さらにEVには、まだまだ克服しなければならない問題点がある。以下、それをざっと挙げてみると、次のようになる。

・長距離走行が可能な大容量電池をつくれるメーカーは、いまのところ存在しない
・EV用電池の資源となるレアメタルが足りない
・EVを普及させるには、EVに供給する電気を大量に発電する設備を数多くつくる必要がある
・今後主流になるとされる再生可能エネルギーでは、EVが必要とする大量の電力をつくれない
・大量の電力をつくれたとしても、それを効率よく送電する方法がまだ確立さ
れていない

 はたして、このようなことは今後、解決が可能だろうか?
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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