前回の記事で指摘したように、EVを普及させるにはまだまだ克服しなければならない問題がたくさんある。いまのところ、中国はそのどれも解決できないまま、補助金によって強引にEV開発・製造・販売を進めている。そこで、今回は「EV時代はやって来ない」と言われるようになった問題点を整理し、EVの生命線である電池を中心にレポートする。
電池の性能が悪くGMのEVが発売延期に
ではまず、前回の記事で挙げた問題点を整理してみる。前回の記事では、中国は補助金なしではEV販売世界一になれなかったことを指摘。中国EVの価格は、およそ3分の2が補助金なので、EVシフトが進んでいるというのは、単なる表面上のことにすぎないことを述べた。さらに、EVの自然発火事故が多発し、中国産のリチウムイオン電池(LIB:lithium-ion battery)が信頼できないものであることを指摘した。
つまり、現在のEVブームは、つくられたブームにすぎず、補助金と電池の性能向上なしには「幻(まぼろし)」に終わる可能性が高いのだ。このことを象徴する報道が最近あったので、今回は、そこから話を始めたい。報じたのは、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)である。
WSJの報道によると、ゼネラルモーターズ(GM)が来年市場への投入を予定しているEV「ヴェリテ6」(Velite 6)の発売が延期される可能性が高いという。その原因は、搭載予定の中国産のリチウムイオン電池の性能が、要求レベルに達しないからだという。
当初、GMは、韓国LGの電池を採用する計画だった。しかし、中国政府は2016年に「バッテリー模範基準認証」を定め、韓国製および日本製の電池を使った場合、補助金を認めないことを決めた。そのため、GMは万向集団(Wanxiang Group)傘下のA123システムズの電池を採用した。しかし、採用してみると、電池のスペックは著しく低かったというのだ。
中国と日本では安全基準が違っている
「電池を制するものがEVを制する」といわれるように、電池はEVの生命線である。そのため、中国は電池産業を徹底して育成するため、前記したように、中国製の電池搭載EVにのみに補助金を出すことを決めた。その結果、寧徳時代新能源科技(CATL)をはじめとする電池メーカーが大躍進した。とくにCATLは、電池出荷量で2017年にパナソニックを抜いて世界一になり、ベンツ、ワーゲン、BMWなどのドイツ勢、英ジャガーなどに電池を供給するまでになった。
しかし、このCATLの電池も最近、「性能が信頼できない」と言われ出したのである。前回の記事で指摘したように、中国では電池が原因とされるEVの自然発火が相次いでいる。しかし、日産リーフなどに使われている日本の電池は、これまで1度も発火事故を起こしたことはない。
なぜ、中国産電池は、このように性能が悪いのだろうか? 専門家に聞くと、「それは安全に対する認識が日本と違うこと。それに、コストを抑えるために安易な方法を採用しているからです」と言う。
「テスラでさえ、初期モデルで何度も発火事故を起こしています。そのため、電池開発では充放電制御システムや冷却システムも併せて開発し、臨界試験を繰り返します。とりわけ、日本勢はこれを重視してきましたが、中国は新興メーカーが入り乱れて開発を進めてきたため、この点がおろそかになったのです。しかも、価格競争があり、単価が安い極材を使っているのです」
なぜ中国のリチウムイオン電池は発火するのか?
以下、さらに専門家に話を聞いた点を紹介する。
「EVの性能を決めるのは、なんといっても電池です。それも、2次電池がカギになります。1回使いきりの電池が1次電池で、何度も繰り返し使える電池が2次電池です。この2次電池に適しているのがリチウムイオン電池で、EVにはリチウムイオン電池を搭載します。スマホやパソコンにもリチウムイオン電池が使われていますが、EV用電池は、容量と出力がはるかに大きくなります。この容量と出力次第で、充電1回当たりの航続距離と、電動モーターの性能が変わります。ですから、電池をどのような基準でつくるかで、EVの性能自体が変わってきます」
「リチウムイオン電池は、常時満充電による高温状態が継続していると、熱による劣化が進行します。その結果、電池の寿命低下を引き起こすおそれが生じます。また、リチウムイオン電池は電力密度が高いので、過充電や過放電、短絡の異常発熱により、発火事故を起こす可能性があります。そのため、過充電を防ぐために、電池の充電が完了した際に充電を停止する安全装置や、放電し過ぎないよう放電を停止する安全装置が組み込まれています」
「中国の場合、主に国内の自動車メーカーがつくるEVに提供するため、電池の極材に安価なリン酸鉄を多く使っています。これに対して、日本勢や韓国勢は、コストが高くてもセル当たりの電圧が高く、最大電圧の持続時間も長くなるコバルトを使っています。中国のEVは、安価な電池を最小限搭載し、航続距離は短くても車両コストと車両重量を抑える戦略を取っています。そのため、発火事故を起こしやすいのです」
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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