(連載164からつづく)
EVに必要な電力が環境を破壊するという皮肉
2番目の問題は、「電力供給」である。それは、将来、いまのガソリン車が全部EVになった場合、どれくらいの電力がいるかという問題だ。また、現在のような電力供給網では、地域ごと時間ごとに電力需要が異なったときに対応できないというのだ。そもそもEVは環境対策のために考案され、そのためにクリーンなエネルギーである電気を使用することになった。しかし、電気をつくる発電所は、いまだに化石燃料を燃やし続けている。
現在、世界の発電事情は、石炭火力が約40%、天然ガスが約20%、水力発電が約17%、原子力が約11%。原子力を含めれば、「環境にやさしくない発電」が7割以上を占めている。となると、本当にクリーンな環境を実現するには、発電をすべて再生可能エネルギーに替えて、EVに必要な電力をまかなうしかない。はたしてそんなことが可能だろうか?
たとえば、太陽光発電の場合は、晴れた日の昼間しか発電できない。また、太陽光パネルの環境破壊も問題になっているし、20年ほどの寿命しかないパネルの使用済み後の処分をどうするかも解決されていない。風力発電も24時間稼働はできるが、結局は風が吹かないことには発電できない。つまり、EVの普及に併せて大量の電力を供給するには、いま以上に化石燃料を燃やさなければならないことになる。こうなると、EVは存在意義をなくす。完全なる皮肉だ。
さらに、電力需要の偏りだが、これはどこでいつ充電するかによって生じる問題だ。1台のEVは1軒の家と同じくらいか、場合によってはさらに多くの電力を使用する。となると、ある特定の地域にEVが普及すると、現在の電力網のハブ・アンド・スポーク方式では対応できない。また、1日という時間で考えると、EVは夜間や深夜の時間帯に充電することになると思われるが、その時間帯への大量の電力供給をどうするかはまだ解決されていない。
ガソリン車に価格では絶対にかなわない
3番目の問題は、やはり「価格」だ。モノが普及するには、消費者の手に届く手頃な価格になることが必要だが、EVにその可能性はないというのだ。すでに述べてきたように、EVは中国のように補助金による補填がなければ、価格は高いままだ。現在のところ、価格に関しては、ガソリン車に圧倒的にかなわない。ガソリンの値段が何十倍にもなれば別だが、価格においてEVは論外である。
航続距離や充電時間の問題は、現在のリチウムイオン電池を使う限り、ガソリン車の価格を下回るのは不可能だ。また、EVには充電ステーションが必要だが、この充電ステーションは、ガソリンスタンドのように民間ビジネスとして成り立たない。電気代が家庭用電気と同じとすれば、300km走るのに必要な電気代は300円ほどだから、これでは供給側は儲けられない。しかも、充電に関する時間は30分以上かかる。こんな状況では、民間でこのビジビネスをやる者はなく、政府が補助金漬けにしない限り、全国規模で充電ステーションができるわけがない。
2040年ガソリン車ゼロは実現しない
どうだろうか? ここまで読まれて、やはりEV時代はやって来ないと思われただろうか?
EV化は現在のところ、極めて政治的な話である。中国がEVシフトを推し進め、欧州各国が「2040年までにガソリン車をゼロにする」としたのも、みな、政治的な思惑である。アメリカではトランプ政権がこの問題にまったく興味がなく、カリフォルニア州などでシフトが進んでいるだけだが、それでも、政治目標に技術が追いついていくということはままある。
環境に負荷を与えない、クリーンな社会をつくることが人類共通の目標なら、世界はEV時代に向かわざるを得ない。つまり、EVの普及はどれくらいのレンジの話かということになる。ここまで書いてきて、私が思うのは、いまいわれている予測「2030年で40%」というのは夢物語であり、10%でもよほどの技術革新がなければ難しいということだ。
ともかく、いまはっきり言えるのは、EVを買い急ぐ必要はまったくないということ。リチウムイオン電池時代が続く限り、EVは見ているだけでいいのではなかろうか?
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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