「黒人差別」と受け止められデモ隊が押しかける
ジェンセンの論文は、とくに黒人の知能に関して述べたものではなかった。また、白人の人種的優位性を示したものでもなかった。彼は、白人、黒人だけではなく、アジア系やメキシコ系も調査し、その結果として「アジア系>白人>メキシコ系>黒人」としたのだ。
つまり、トランプとトランプ支持者にとって残酷すぎる真実である「白人の知能は黒人やメキシコ系より高いかもしれないがアジア系よりは低い」ということも明らかにしてしまったのである。
ただし、そもそも人種差別反対の根底にある考え方、いわゆるリベラルな常識は破壊した。その常識とは、「白人も黒人も同じような環境で育てば、みな同じような能力、知能を獲得する」というものだ。
そのため、彼の論文は「黒人の子どもはもともと知能が低いのだから、教育を受けさせても無駄」というように受け止められ、UCバークレーにはデモ隊が押しかける騒ぎになった。しかし、それから半世紀ほどたった現在まで、世界的な学術賞である「ノーベル賞」「フィールズ賞」「ウルフ賞」などに、アジア人の受賞者は出ても黒人の受賞者は1人も出ていない。
アメリカではマイノリティに対する特別優遇策(差別是正)としての「アファーマティブアクション」(affirmative action)がある。そのため、黒人などのマイノリティは大学入学などで、ある一定の「特別枠」が確保されている。
しかし、トランプは今年の7月、これを撤廃する方針を打ち出した。トランプはアファーマティブアクションを保守派の主張どおり、白人に対する「逆差別」だと受けとめているのだ。しかし、アファーマティブアクションを廃止したとしても、トランプの思惑どおりにはならない。なぜなら、大学において黒人学生の割合は減るかもしれないが、同時に白人学生の割合も減り、マジョリティはアジア系になってしまうからだ。
「ベルカーブ」が明らかにした知能格差
ジェンセンの論文の後、同じような大論争を巻き起こしたのが、1994年に出版された「ベルカーブ」(The Bell Curve: Intelligence and Class Structure in American Life)である。著者は心理学者のリチャード・ハーンスタインと政治学者のチャールズ・マリーで、人種別の知能分布(いわゆる偏差値)を詳細な統計分析により示したため、アメリカ社会に衝撃をもたらした。
ベルカーブとは、分布グラフのこと。この分布グラフは、本来、知能と社会階層に強い相関関係があることを明らかにするものだったが、そのなかで、ハーンスタインとマレーは、黒人のIQが白人のIQより低いことを提示した。そして、こうした知能の格差は「遺伝と環境要因の両方が関連している可能性が非常に高いと思われる」と述べたので、炎上したのである。
「ベルカーブ」自体は、人種別の知能調査の本ではない。人種的な知能の差異は一部であり、能力差が社会的にどう影響するかを研究した本だった。つまり、社会のなかには知的弱者が一定数存在するから、彼らが不利にならないためにどうしたらいいかということを追求したものだった。
しかし、その主旨とは関係なく、人種差別を助長するものとしてリベラルから糾弾されたのである。
ただし、「ベルカーブ」出版から20年あまり、もはや、人種間の知能の格差は論ずることではなくなっている。いまではこれは事実として受け止められ、言及しても差別とは見なされなくなった。
それより、人種間の知能の格差がなによってもたらされたのかに焦点が移っている。つまり、遺伝によるのか環境によるのかである。現在の大方の見方は遺伝である。しかしだからこそ、それによる人種差別をどう克服するかが大きなテーマになっている。
世界の国別(民族)の平均IQランキング
「人種」と「民族」とは異なる概念だが、混同されることが多い。たとえば、ユダヤ人は一般的に「アタマがいい」=「IQが高い」とされている。しかし、ユダヤ人という人種は存在せず、ユダヤ教の信徒でユダヤ文化を共有する人々をユダヤ人と言っているにすぎない。したがって、これは民族である。
同じく、日本人という人種は、実際には存在しない。アメリカ人という人種も存在しない。存在するのは、共通な文化や伝統を持った民族という共同体であり、そのような共同体からできている「国」である。1つの民族でできている国もあれば、多民族が共存する国もある。
そこで、「世界の国別平均IQランキング」というものがあるので、それを紹介してみたい。
これをつくったのは、英国の心理学者リチャード・リンとフィンランドの政治学者タツ・バンハネンで、「IQ Research」というサイトで公開されている。
→https://iq-research.info/en/average-iq-by-country
では、国別IQランキングを紹介したい。
(1)香港 、シンガポール 108
(2)韓国 106
(3)日本、中国 105
(4)台湾 104
(5)イタリア 102
(6)アイスランド、モンゴル、スイス 101
(7)オーストリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、英国 100
(8)ベルギー、カナダ、エストニア、フィンランド、ドイツ、ポーランド、
スウェーデン 99
(9)アンドラ、オーストラリア、チェコ、デンマーク、フランス、ハンガ
リー、ラトビア、スペイン、アメリカ 98
ちなみに、下位はほとんどアフリカ諸国で占められていて、次のようになっている。
(40)ガンビア 66
(41)カメルーン、ガボン、モザンビーク 64
(42)セントルチア 62
(43)最下位、赤道ギニア 59
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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