「白人も昔は黒人だった」
つまり、私たち(現生人類=ホモ・サピエンス)は、1種だけ。白人も黒人もイエローも、みな同じ種なのである。2万年前までは、別の種である「ネアンデルタール人」がいたが、絶滅してしまった。
となると、人種とは人間を分類する用法の1つとはいえるが、生物学的な種や亜種とは異なる概念なので、この分類で人類を考えても意味がないということになる。現生人類は遺伝的に極めて均質で、種や亜種に値する差異も存在しないのだ。
したがって、最近は、人種という非科学的な概念でヒトを分類せず、人類が単一種であることを前提にして、地域的な特徴を持つ集団として、「約1万年前の居住地域」を基準に、アフリカ人、西ユーラシア人、サフール人、東ユーラシア人、南北アメリカ人というように、地域名称で呼ぶことが提唱されている。
そして、これらの集団を7万年前までさか上ると、この地球上のすべての人間は「アフリカ人」となってしまうのだ。よく、「白人も昔は黒人だった」と言われるが、そのとおりなのである。
私たち現生人類は、約20万年前にアフリカ(正確には東アフリカ)で誕生し、約7万年前に「出アフリカ」をして世界中に分散した。この出アフリカ以前、私たちの肌の色は、「黒」もしくは「褐色」と推定されている。最近の研究によると、欧州の白人の元となった集団は、出アフリカ後も長い間黒人のままで、約1万年前に肌の色が変化したという。
「出アフリカ」の黒人からすべての人種が分岐
それでは、ここで大まかに現生人類の歴史を述べてみると、現在の黒人(ネグロイド、Negroid)が分岐した後、5万年から7万年ほど前に黄色人種(モンゴロイド、Mongoloid)と白人(コーカソイド、Caucasoid)の共通の祖先に当たる「出アフリカ系」が分岐する。
出アフリカ系のなかにはアフリカに戻って、現地の残った人たちと混血していった人々もいるが、それ以外の人々は、間もなく、黄色人(モンゴロイド)と白人(コーカソイド)に分岐する。さらに、モンゴロイドからオーストラロイド(Australoid)が分岐し、さらにモンゴロイドのなからアメリカ先住民(ネイティブアメリカン)が分岐していった。
このように、集団が分岐するなかで肌の色や髪の色の違いが形成されていったのである。中東のアラブ人やインド人は肌の色ではイエローとされる私たち日本人などより濃い色をしているが、系統としてはヨーロッパ系と同系統のコーカソイドで、遺伝的には日本人よりヨーロッパ系の人々に近い。コーカソイドには、ヨーロッパ系、アラブ系、イラン系、北インド系が含まれる。つまり、中近東やインドは地域としてはアジアに属するが、人類の系統としてはコーカソイドになる。もちろん以上は、大まかな流れで、実際はもっと複雑な分岐、混血を繰り返して現在にいたっている。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
この続きは11月5日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。