突然変異と紫外線によって白人ができた
このような人類の分岐を引き起こしたのは、「突然変異(mutation)」である。突然変異とは、「DNAの塩基の並びの変化」のことで、たとえば、細胞分裂の際のコピーミスなどで発生し、その変化が次世代に引き継がれるケースがある。とくに、それが次世代にとって生存や繁殖に有利な変化であれば、そのまま引き継がれていく。
突然変異はけっこう頻発に起こるとされている。しかし、それが次世代に引き継がれるどうかは、環境に大きく左右される。たとえば、アフリカで黒人の両親からメラニン色素が少なく肌の色が白い子どもが生まれたとしても、その変異は引き継がれない。なぜなら紫外線が強いため、そういう形質は生存に不利だからだ。その結果、黒人の集団は黒人の集団のまま続いていく。
しかし、出アフリカ系の集団に同様の変異が起こった場合はそうではない。紫外線が強くないからだ。もちろん、環境の条件は紫外線だけとは限らないが、進化論に基づけば、その環境に適合したものが常に「選択(natural selection)」されていく。ただし、黒人が突然、白人やイエローになったわけではない。
最近の研究によると、約1万年前、黒海周辺の地域で、「目(虹彩)が青い」の集団が突然変異で発生したと推定されている。また、「金髪」は北欧で発生したと推定されている。つまり、白人は段階的に突然変異により白人になっていったのである。
約7000年前までの白人の容姿は、まだ黒い髪に浅黒い肌であり、瞳だけが青かったという。その後、じょじょに肌が白くなっていき、金髪、青い瞳、白い肌の白人が誕生していったという。
祖先が太陽の光にどう対処したかの違い
遺伝の話に戻すと、日本では日本人のルーツを探るゲノム解析研究が続いているが、最近の解析研究によると、縄文時代の遺跡から発掘された縄文人のDNAは、中国人、ベトナム人など、ほかのアジア人とはかけ離れていることがわかっている。
つまり、縄文人の元集団は、出アフリカをしてアジアに向かった集団から分岐した集団ではないのだ。アジアに向かった集団のなかにパプアニューギニアからオセアニアへ渡った集団があり、そこから分岐した集団が縄文人であるという。彼らは、2万年から4万年前に独自に日本列島にたどり着いたとされている。つまり、縄文人は現代日本人の直接の祖先ではなく、その後渡来した弥生人と混血して、日本人ができたのである。
このようにゲノム解析によって、さまざまなことが判明している。しかし人類を集団別で見ると、遺伝子の差異はほんのわずかにすぎない。遺伝子を構成する塩基対は約2万にも上るが、欧州の白人の肌が白くなったのは、「SLC24A5」という遺伝子に起こった、たった1つの小さな変異にすぎないという。この遺伝子の塩基対の1カ所において、サハラ砂漠以南に住むアフリカ人の大半ではGとなっているが、白人はAとなっている。それだけの違いだという。
これは、白人至上主義者にとっては、本当に「都合の悪い真実」だろう。同じく、人種差別主義者にとっても、ゲノム解析は差別を意味のないものしてしまう点で「都合の悪い真実」だろう。結局のところ、見た目の肌の色で分けた人種の違いは祖先が太陽の光にどう対処したかというだけの違いだ。それ以上でも、それ以下でもないのである。
ここに書いた内容をやさしい言葉で子どもたちに伝えていけば、偏見や差別は減っていくと思う。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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