連載175 山田順の「週刊:未来地図」 「支給開始70歳」はもう目前に! (上) 今後、年金はどのように崩壊していくのか?

 「年金は大丈夫だろうか?」という将来不安が広がっている。これまでもずっと、年金に対する将来不安はあったが、今回はより深刻だ。というのも、10月22日の政府の未来投資会議で雇用継続年齢を65歳から70歳に引き上げることが確認され、それに伴い年金の受給開始年齢も70歳にすることが議論されたからだ。さらに最近の日米の株価の下落で、年金資金の目減りが懸念されるようになった。すでに、「いずれ年金はダメになる」ということに、日本国民は薄々だが気がついている。しかし、それがすぐに現実になるとは思っていない。

2019年は年金制度改定の年

 政府の未来投資会議では、いろいろなことが議論されているが、雇用継続年齢の70歳引き上げに関しては、すでに決まったも同然と言っていい。となると、年金もこれに連動して、70歳支給となるのは間違いないだろう。問題は、それがいつになるかということだ。来年は消費税増税が控えている。そして、2020年には東京オリンピックがある。となると、その後になるだろうが、年金財政がこのままではもたいないのは、政府の共通認識だから、できるだけ早い時期に決定される可能性がある。
 年金に関しては、5年ごとに制度を見直すことが決まっている。来年、2019年はその5年ごとの年にあたる。となると、「5年後から支給年齢を70歳とする」、あるいは「今後5年間で支給年齢を1歳ずつ引き上げる」というようなことが決まる可能性は十分にある。

「働き方改革」とセットの支給年齢引き上げ

 もう書くまでもないが、高齢化を背景に安倍内閣は「働き方改革」を打ち出している。その1つの柱として、「70歳まで働く」ということがあり、それに伴い年金支給年齢が70歳になるということと理解すればいいと思う。
 今年の9月3日、安倍首相は働き方改革の第2弾を表明し、このとき、はっきりと「生涯現役時代の雇用改革を断行したい」と発言している。具体的には、①今後1年かけて生涯現役時代に向けた雇用改革を断行する ②次の2年をかけて医療、年金など社会保障制度全般にわたる改革を実施する ③継続雇用年齢65歳以上への引き上げや70歳超の年金受給開始も選択できる制度を検討する、ということである。
 この3点を基に政府の未来投資会議の議論が行われているわけで、その結論は「今後1年をかけて」というのだから、2019年夏には決まるだろう。となると、その後は速やかに法改正が行われることになる。すでに、財務省は何度も年金支給開始年齢の一律引き上げを提案している。その思惑通りにことが進んでいくというわけだ。

年金資金の半分を日米の株式に投資

 すでに私は、「いずれ年金財政は崩壊」すると、自著や記事で何度も述べてきている。人口減が進み、高齢世代を支える現役世代(年金を収める世代)が減るのだから、これは当然の帰結だ。年金の仕組みは複雑だが、これだけは誰にもすぐわかることだろう。しかし、それなのに、これまで有効な改正は一切されてこなかった。そればかりか、アベノミクスにおいては政府は、年金資金の運用をなんと株式に委
ねるという「改悪」をしてしまった。
 そこでまずは現在、年金財政がどの時代よりも危機に陥っているということを指摘しておきたい。
 年金を運用しているのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という公的機関である。GPIFは、安倍政権になるまでその資金を国債などの「安全資産」を中心に分散投資してきた。ところが2014年以降、株式投資を2倍に増やしてしまった。そして、いまでは総資金量約156兆円の半分が日米の株式に投資されている。株式投資資金は、日本株が25%、米国株が25%という比率になっている。となると、株価が下落すればその分、私たちの年金資金は減ることになる。もちろん、上がっているときはいい。しかし暴落でもしたら、それこそ巨額の年金の原資が吹き飛んでしまう。
 この不安が顕在化したのが、10月初めに起こったNYダウの暴落である。NYダウは、10月3日に2万6651ドルと過去最高値を付けた後、10月11日に2万4899ドルまで下落した。日経平均はNYダウの「鏡相場」だから、10月2日に2万4448円と6年ぶりの高値を付けた後に、NYダウとともに暴落し、10月12日には2万2323円まで下落した。
 本稿執筆時点(10月29日)では、NYダウは2万4000ドル台、日経平均は22万1000円台である。これにより、はたしてどれだけの年金資金が失われただろうか?
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは11月12日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。