これからは「ライフプラン3.0」で生きる
このようなことを受けて、日本FP協会専務理事の伊藤宏一・千葉商科大学教授は、「ライフプラン3.0」を提唱している。「インダストリー4.0」のように、ステージがどんどん変わってきた世の中だが、ついに、人生も「3.0」の世界に突入したというわけだ。そこで、「ライフ・シフト」を日本人の人生に適用し、「ライフプラン3.0」を説明すると、およそ次のようになる。
「1.0」というのは団塊世代。第2次世界大戦後に生まれ、日本の高度経済成長時代を生きてきた世代の生き方である。この生き方は、簡単に言うと、学校教育を受けて成人すると社会に出て職に就く。そうして、1つの会社で定年まで勤め上げ、その間、結婚、マイホームの購入、子育てをして引退。老後は年金暮らしという人生である。この場合、女性はほとんどが結婚後は専業主婦となる。
「2.0」というのは、バブル世代から団塊ジュニア世代。現在、40~50歳のアラフォーからアラフィフに移りつつある世代の生き方。まだ「1.0」を引きずっているものの、転職も増え、結婚しないままの人もいる。結婚した場合は、ほとんどが共稼ぎで、子育てに追われ、景気停滞もあってマイホームを持てないままの人もいる。
今後、定年はなくなり、年金は減額が確実のため、人生100年に対しては、もっとも不安を抱いている世代と言っていい。
こうして「3.0」となるわけだが、この世代は30歳以下の世代で、まだ学生であったりする。彼らはほぼ100歳まで生きるとされているので、「1.0」「2.0」世代とは、まったく違う人生を選択しなければならない。しかし、それがどんなものになるかは、まだはっきりしていない。
「年功賃金・終身雇用・定年退職」は消滅しているので、職業人生は厳しいものになる。AIやロボットとも対抗しなければならない。そのうえで、結婚、子育て、マイホーム購入などの人生設計をしたうえ、健康が続く限り働き続けることになる。その際には、「シンギュラリティ」(Singularity:技術的特異点)を超えてしまうので、身体機能を機械で、脳機能をAIで補った「ポストヒューマン」(Posthuman)になっていくかもしれない。
結局、「ライフ・シフト」や「ライフプラン3.0」が示唆しているのは、「これからは親や先輩の生き方を学んでも意味がない」ということだ。
目新しいテーマなのに目新しいものはない
安倍首相は、なにか“目新しいもの”があるとすぐに飛びつくという人である。「人生100年」はまさにそれで、「1億総活躍社会の実現」に、「ライフ・シフト」はまさにピッタリはまったから、英国からリンダ・グラットン教授を招聘して委員の1人になってもらい、「人生100年時代構想」会議を始めたのである。
この会議がこれまで行ってきた主なテーマは、「幼児教育の無償化」「待機児童の解消」「高等教育の無償化」「介護人材の処遇改善」「リカレント教育」「高齢者雇用の促進」などで、よくよく見てみれば、“目新しいこと”など1つもない。このうち、「幼児教育の無償化」は2019年10月から全面実施が決まったが、これがなぜ「人生100年構想」なのか、私にはよくわからない。しかも、すべてのテーマにおいて、税金投入をする“バラマキ”事業が始まっていく。これは、国の支配の強化であり、民間事業の圧迫だから、社会は発展しない。
「人生100年時代」が来るのは間違いない。しかし、それへの対処は、国民1人ひとりが個別に考えて実行することで、このように、政府が音頭を取って「こう生きろ」と言うのでは、ライフプラン「1.0」「2.0」時代と同じではないだろうか?
そして、ここからがもっと大事になるが、はたしてどれだけの人間が「人生100年」=「長生き」を望んでいるかということだ。現代では、「長生きはめでたい」ことだとされ、長寿は尊重される。しかし、これがいかに残酷なことか、「人生100年時代構想」会議の人々は知らないか、知っていても無視している。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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