連載185 山田順の「週刊:未来地図」2019年の世界はどうなる?(1の下) アメリカの「1極支配」が強まり、中国、ロシアは弱体化。欧州、日本も対米追従に回帰!

トンランプが英国の「ブレグジット」に注文

 トランプのアメリカは、欧州に対しても関係の再構築を迫ってきた。まずは、「EU離脱」(Brexit:ブレグジット)の渦中にある英国だが、来年3月29日のタイムリミットが迫っているにもかかわらず、まだ国内で揉めている。問題は、ブレグジットの仕方で、EU加盟国と「ヒト・モノ・カネ」の流れをいきなり止める「ハード路線」か、一部を認める「ソフト路線」かで決定的な政治的決断ができないのだ。ただ、すでにトランプに脅かされて、ハード路線に進むのはほぼ確定している。というのも、テリーザ・メイ首相は、元々はソフト派だったのに、今年7月、トランプの来英とともに路線転換してしまったからだ。
 トランプは来英前、「英国がEUとの結び付きを維持するなら、われわれは英国ではなくEUと取引する(穏健な離脱方針は)両国の取引を殺すだろう」と、英紙のインタビューに答えていた。この脅しにメイ首相は屈したのだ。結局、英国はEU離脱後、アメリカとFTA交渉を推進することになる。
 これにより、ロンドンの金融中心シティがどうなるか? 世界の金融筋は注目している。さらに各国企業の英国離れ、人材流出も懸念されている。英国は、ロンドンオリンピック以後、低成長を続けてきた。EU主要国が毎年2%以上成長しているのに比べ、1%台の年が多かった。それでも日本よりはマシだが、EU離脱後にどうなるかは、正直わからない。

「欧州軍」発言で窮地に立った仏マクロン政権

 英国と同じく、いや、それ以上にアメリカに押し切られる可能性があるのがフランスだ。マクロン政権は現在、暴動が発生して窮地に立たされているが、これまで、ことごとくトランプと対立してきた。決定的だったのは、6月のマクロン大統領の訪米。このとき、例によってトランプはフランスにEU離脱を持ちかけ、「米仏FTA」を提案した。もちろんマクロン大統領はこの提案をほとんど無視したので、以後、フランスはトランプの視界から消えた。
 ところが、この11月9日に、マクロン大統領が「欧州軍」の創設を訴え、11日11日にパリで行われた第1次世界大戦終結100周年の記念式典で、ナショナリズムを強くけん制して暗にトランプを批判したため、トランプの反撃が始まった。トランプはツイッターで、「マクロンの支持率は低い」「仏ワイン産業の貿易慣行は不公正だ」などと非難。さらに、欧州軍の創設にいたっては、「屈辱的な話だ」と強く批判した。
 このトランプの批判はアメリカ側から言わせればもっともである。というのは、これまで「NATO」(北大西洋条約機構)により、欧州の安全保障は保たれてきたからだ。それが欧州軍の創設でアメリカ軍が不要となれば、アメリカはユーラシア大陸の両サイドで、軍事的プレゼンスを失いかねない。
 軍事と経済は切っても切れない関係にある。軍事力が展開され、安全保障が確保されない地域ではまともな経済活動は行えない。英国が世界覇権を握れたのも、英国海軍が7つの海を支配し、そのなかで自由に交易できたからである。日本が生命線である石油を中東から運んで来られるのも、インド洋から太平洋にいたるシーレーンをアメリカ海軍が守っているからである。
 また、フランスは核兵器や空母を持ち、独自の戦闘機を開発製造するなど武器輸出大国である。したがって、欧州軍創設となれば、アメリカの武器産業は欧州から追い出されることになる。マクロンは、トランプの非難に耐えたが、「第2次大戦でフランスを救ったのはアメリカだ」と言われると、「(その発言は)品性に欠ける」と皮肉くるほかなかった。11月19日、マクロンは、「(欧州は)大国のおもちゃになってはならない」と欧州団結を訴えたが、トランプは聞く耳を持っていない。

トランプの“強気”の背景は好調な経済

 以上、ここ1年間の世界を、アメリカを中心に振り返ってみた。ここでは、北朝鮮情勢および中東情勢(イラン、サウジなど)を飛ばしたが、この2つは今後の世界情勢にさほど大きな影響を与えない。アメリカの影響力が低下するとは考えられないからだ。そこで、ここまでで言えるのは、トランプをここまで強気にさせている(別の言葉では「思い上がらせている」)のは、ひとえにアメリカの経済が好調だからである。リーマンショックによって世界の富を失わせたにもかかわらず、アメリカ経済は2009年7月からの景気拡大局面を続けている。 
 雇用環境は良好で、失業率は2018年4月には4%を割り込み、平均賃金の前年比での上昇も続いている。この好景気を背景にFRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利(FFレート)の利上げを継続している。現在、FFレートは2.00~2.25%となっているが、今月19日から20日に開催されるFOMC(米公開市場委員会)では、今年4度目となる利上げがほぼ確実視されている。このような状況から、世界の資金はアメリカに集まっている。
 実際、アメリカ経済の好調さは消費に現れている。私はつい先日までニューヨークにいたが、感謝祭恒例となった「ブラックフライデー」に街を歩くと、どこの店もセールに大勢の人が集まっていた。ただし消費が好調なのは実店舗より、オンライン販売。アドビアナリティクスの分析によると、今年のアメリカ国内のブラックフライデーの売り上げは絶好調で、オンラインでの売上高は62億ドルと過去最高(前年比べ23.6%増)を記録した。また、「サイバーマンデー」の売上で、アマゾンは過去最高の数字を叩き出した。

NYダウが下落してもアメリカは変わらない

 となると、アメリカ経済の好調がどこまで続くかだが、「調整局面」を迎えたとする見方がある。それは、NYダウの動きが、ここのところ激しいからだ。NYダウは、今年2月、12%も暴落した。1月末の2万6600ドル台の高値から2月上旬には2万3300ドル台まで値下がりした。ところがその後、トランプが “横暴” を繰り返したにもかかわらず反転し、10月3日には瞬間的に2万6900ドル台まで上昇、史上最高値を付けた。しかし、ここがピークではないかといわれている。
 なぜなら、10月4日からわずか6営業日で2万5000ドルを割り込んだからだ。現在、再び2万6000ドル台に迫っているが、はたしてこのまま2万7000、2万8000と上昇するだろうか? 長期金利が3%を明確に超えてくるようになると、低金利に頼ってきたアメリカの旺盛な個人消費に陰りが見え始めるのは間違いない。なにしろアメリカは、政府も個人も借金に頼る、世界一のクレジット社会だからだ。長期金利の上昇は、自動車ローンやカードローンの延滞率の上昇を招く。
 はたして、これをトランプがどう乗り切っていくかはわからない。しかし、多少、経済が停滞しようと、アメリカは1極体制強化に邁進する。世界は多極化しない。トランプが大統領2期目に突入しようと、新大統領が出現しようと、世界は今後もアメリカを中心に回っていくだろう。   
(1部、了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com