連載186 山田順の「週刊:未来地図」 2019年の世界はどうなる?(2の上) 米中戦争の主戦場は「関税」から「半導体&5G」、 そして最終的に「金融&通貨」へ!

 2019年の世界情勢の最大の注目は、「米中新冷戦」がどうなるか? だろう。とりあえず、アメリカは追加関税措置を先送りし、一時的な休戦に入ったが、この戦争は中国が音を上げるまで続く。つまり、まだ戦争は始まったばかりというわけだ。
 そして、ファーウェイのCFOの逮捕で、現在の主戦場が次世代通信技術の「5G」を含めたハイテク産業であることが明らかになった。しかし、中国は「中国製造2025」を諦めるわけにはいかない。また、推進中の「一帯一路」の看板を下ろすわけにもいかない。
 となると、アメリカは最終的に、金融と通貨で中国を締め上げることになる。

株価暴落の引き金となったファーウェイショック

 ファーウェイ(Hauwei :華為技術)の孟晩舟(Meng Wanzhou 高財務責任者(CFO)兼副会長(創業者の任正非=Ren Zhengfeiの娘)、が、アメリカの要請に応えてカナダ当局により逮捕された事件は、世界中に大きな影響を与えた。
 とくに、12月初旬、NYのダウが2日連続で暴落し、一気に1200ドルも下落したことは、「ファーウェイショック」とも呼ばれ、市場関係者にとってはかなりの衝撃だった。米長期金利と短期金利の逆転も起こり、これから景気は後退すると、誰もが思い始めてしまったからだ。
 はたして、本当に景気は後退局面を迎えるのか? それが、2019年を迎えるにあたって、最大の問題だろう。
 とはいえ、景気予測などというものは、ほぼ当たらない。「よくなる」「悪くなる」の2択なのに、専門家ほど理屈をこねくりまわし、どうころんでもいいような記事(論文)を書いて、読者をケムに巻くことが多い。
 しかし、私はそんな真似はしない。とりあえず、わからないものはわからないとし、世界景気に最大の影響をもたらす「米中新冷戦」の行方のみを追求してみたい。
 NYダウ暴落の直接の引き金を引いたのは、IT大手銘柄の投げ売りだった。とくに、アップル、マイクロソフト、インテルの株価は、それぞれ3~4%も値下がりした。スマホを中心とするネット産業の市場から、ファーウェイが追放された場合、IT大手はみな大きなダメージを受ける。そう、市場は判断したのである。

思わず耳を疑った日本の防衛相の発言

 アルゼンチンのG20の際に行われた米中会談で、米中関税戦争はひとまず90日の休戦となった。それで、市場が一安心しているときに襲ってきたのが、ファーウェイショックだった。
 トランプ大統領は12月7日、「米中協議はとても順調だ!」とツイッターで強調し、国家経済会議(NEC)のクドロー委員長もCNBCテレビ番組でファーウェイについて「安全保障の問題」であり、米中協議とは「別の問題だ」と述べたが、そんなことを信じる関係者はいない。
 関税戦争とファーウェイ排除は、どちらもアメリカの対中戦略であり、切り離して論じることなどできないものだ。
 すでにファーウェイとZTE(中興通訊)の製品はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの政府機関が排除しており、さらに、イギリス、ドイツも排除を決定している。
 そして日本政府も、中国政府に気兼ねしながら排除を決めた。
 ただ、情けないのは、この問題に関して記者団に説明を求められた岩屋毅防衛相が、「実際にはいまのところ使っておりませんので、ふぁ、ふぁ…?ファーウェイさんはね」と述べたことだ。これを聞いて、私は思わず耳を疑った。なぜなら、この言い方で推察するに、この人はファーウェイのことを、それまで知らなかったとしか思えなかったからだ。

安全保障に対する意識が希薄な日本の政治家

 ファーウェイは、すでにスマホの販売台数ではアップルを抜いて世界第2位(1位は韓国サムソン)のワールドクラスの企業となっており、ついこの間、日本でもトリプルカメラ搭載の「Mate 20 Pro」を発売したばかりである。
 ファーウェイの昨年度の日本国内におけるSIMフリースマホ出荷台数は100万台に達し、人気第1位となっている。実際、かつては中国製と小馬鹿にしていた人たちも、「安いうえにハイスペックで使い勝手もいい」と言うようになっており、私の周囲のメディア関係者のなかにも「iPhone」から乗り換えた人間がいる。事実、「価格.com」(カカクドットコム)でのスマホランキングでは第1位を獲得している。
 こういう状況にあるのに、防衛相が「ふぁ、ふぁ…?ファーウェイさんはね」と言うのだから、信じがたかった。
 さらにその後の報道によると、「政府がファーウェイの製品を分解したところ、ハードウェアに“余計なもの”が見つかった」(与党関係者)というので、今回の排除方針となったという。実際、12月9日の会見で、菅義偉官房長官は「情報の窃取、破壊など悪意ある機能が組み込まれた機器を調達しないことは極めて重要だ」と指摘した。
 しかし、このような指摘は、本当に不用意というか、信じがたいことだ。なぜなら、ファーウェイ自身はこうしたな疑惑をこれまで一切否定してきたからだ。そればかりか、ファーウェイは中国政府との関係自体も否定してきた。
 となると、いくらアメリカが「安全保障上の脅威」としても、日本政府自身もそれを証明する必要がある。つまり、与党関係者の発言は、本当に日本がその証拠(分解して“余計なもの”を見つけたのか)を持っていない限り、問題視されることになる。
 WTO(世界貿易機関)のルールでは、加盟国は一方的に輸入制限を課すことを禁じられている。しかし、例外がある。それは、その製品がその国の安全保障に抵触するとされた場合だ。とはいえ、そうするためには、それを証明しなければならない。つまり、政府は単に「アメリカの同盟国としてアメリカの方針に同調する」と言えばよかったのである。
 こうした経緯を見てつくづく思うのは、日本政府、とくに政治家に安全保障の意識が希薄なことだ。こんな程度の姿勢だから、これまで中国に日本の先端技術を知らぬ間に盗まれてきたのである。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com