世界中で、中国の「ファーウェイ」(華為技術)の製品排除の動きが広がっている。そこで、気になるのがインターネットのセキュリティ(安全)の問題。あと1年ほどで自次世代通信5Gがスタートすれば、さらに問題は深刻化するだろう。
ファーウェイ事件は、はからずも米中のネットの覇権をかけた争いを浮き彫りにした。もし、この戦争に万が一中国が勝利することがあれば、「インターネットの自由」は失われ、世界はダークサイドに沈んでしまうかもしれない。
ネットの先端技術で中国がアメリカを凌駕
インターネットが一般に普及し始めたのは、1995年の「ウィンドウズ95」の大ヒットからだから、わずか20年余りで人々の生活を劇的に変えてしまった。もはや、私たちはスマホなしで生活できなくなり、常にネットに接続されている状態が続いている。
オンラインシッピング、オンライン決済、カーシェアリング、フィンテック、ヘルステックなど、ネットは私たちの生活のあらゆる分野に及んでおり、経済はネットなしで回らなくなった。
その先端を行っているのが、どう見ても中国である。ファーウェイに象徴されるように、ネットの先端技術において、もはやアメリカが優位とはいえない状況になっている。もし、このままの状況が続いたら、どうなるのだろうか? ネットの覇権を中国が握ったとき、世界はいったいどうなってしまうのだろうか?
それを考えるためには、中国のインターネットが、いまどうなっているのかを知らねばならない。
これに関しては、昨年の9月、グーグルのエリック・シュミット元CEOが注目すべき見解を投資家の前で語っている。これは、非公開イベントだったが、シュミット氏の発言内容は、CNBCによって報道された。
「Former Google CEO predicts the internet will split in two ? and one part will be led by China」(グーグル元CEOがインターネットは2つに別れ、一方は中国がリードすると述べた)
→www.cnbc.com/2018/09/20/eric-schmidt-ex-google-ceo-predicts-internet-split-china.html
グーグルのトップによる衝撃的な発言
経済評論家のタイラー・コウエン氏の質問に答えるかたちで、シュミット氏はネットの未来についてこう述べた。
「もっとも可能性の高いシナリオは、インターネットそものもがバラバラになることではなく、むしろ『中国主導のインターネット』とアメリカが率いる『非中国のインターネットへ』と2つに分かれていくことでしょう」
この2つのインターネット発言は、衝撃的だった。誰もがうすうす気づいているとはいえ、IT大手のトップが、初めてそれを口にしたからである。
さらに、シュミット氏は、次のように述べた。
「中国における企業規模やサービスの構築、生み出される富の規模は驚異的なものがあります。中国のGDPに対するインターネットの貢献度は、アメリカに比べて非常に高いのです。グローバル化によって、中国の影響力は増しています。今後、世界は、中国からやって来る商品やサービスが優れたリーダーシップを発揮するのを目の当たりにするでしょう」
つまり、シュミット氏は ネットが中国経済発展の大きな要因となっていると指摘し、もはや世界はその影響から逃れられないと指摘したのだ。しかし、このシュミット氏の発言は単純な中国礼賛論ではない。その後に、中国のネットの危険性を指摘するのを忘れなかったからだ。
「中国の商品やサービスといっしょに、検閲や規制といったものがもたらされる危険性があります」
それでも中国進出するアメリカIT大手
なぜ、シュミット氏は、最後に中国のネットの危険性を指摘したのだろうか?
それは、この発言の1カ月ほど前、グーグルが検閲を理由に1度は撤退した中国での検索事業に再参入する計画であると、ネットメディアにすっぱ抜かれたからだ。それは「ドランゴフライ」というプロジェクトで、社内でも極秘に進められているという。この報道に社内外から激しい批判の声が上がり、シュミット氏はその批判に配慮したのである。
しかし、シュミット発言から1カ月後、グーグルの現CEOスンダー・ピチャイ氏は中国再進出を認め、中国向けの独自の検索サービスを進めると表明したのだった。
この経緯を、ファーウェイ事件が起こったいまの時点で振り返ると、なんとも虚しいものがある。
というのは、グーグルばかりか、アメリカのIT大手はここ1、2年、中国への本格進出を目指して動いてきたからだ。昨年、フェイスブックは進出拠点を中国に置くことを表明し、今年7月には「アリババ・グループ」の本拠地の杭州に子会社を設立した。
「App Store」(中国版)を許されているアップルは、昨年来、中国の規制に合わせるために内容を大幅に変更、当局の要請に応じて数百のアプリを削除した。また、昨年の3月には、「iCloud」サービスのデータとその運用を中国企業に引き渡している。
グーグルも、すでに中国に数多くのスタッフを抱え、AI研究所を設置し、中国市場向けにAIゲームやファイルマネジメントなど複数のアプリをリリースしている。
このように、アメリカ政府が「安全保障上の脅威」と警告し続けたにもかかわらず、アメリカのIT大手は貪欲に中国市場を狙っているのだ。
いまさら、「2つのインターネット」などと言っても、結局、中国のネット企業を大きく育ててきたのは、アメリカのIT大手の「寛容さ」にすぎない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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