「フェイスブック」も「ライン」もつながらない
いまさら書くまでもないだろうが、中国では政府による「グレート・ファイアウォール」(GFW:ネットの万里の長城)によって、ネットへのアクセスが遮断されている。中国のネットには、「金盾」というシステムが組み込まれていて、特定のIPアドレスにアクセスがあった場合には、グレート・ファイアウォールが作動する。
日本で使うのと同様にアドレスを入力しても、「サイトは見つかりませんでした」と返ってくる。グーグル関係のサービスはほぼ使えない。検索も「Gメール」もダメ。「ユーチューブ」(YouTube)も「ツイッター」(Twitter)も見ることはできない。アンドロイドのスマホでアプリをダウンロードしようと「グーグルプレイ」(Google Play)にアクセスしてもつながらない。
「フェイスブック」(Facebook)は、「アラブの春」の影響からか、2009年から遮断されている。もちろん、フェイスブック傘下の「インスタグラム」(Instagram)も見ることができない。インスタグラムは、2014年に香港で起きた反政府デモ(雨傘運動)の際に遮断された。日本のネットサービスでいえば「ライン」(LINE)も「ニコニコ動画」もダメである。もちろん、反中の書き込みが多い「2ちゃんねる」などは完璧にダメだ。
中国当局は、なぜ遮断したのかは公表していないが、言論の自由が広がること、反政府運動が起こることを警戒してのことであるのは間違いない。
2014年、ラインが突然つながらなくなったとき、中国在住の日本人の多くが困った。それまで家族とラインで連絡を取り合っていたからだ。しかし、中国政府はなぜラインを遮断したのか一切公表しなかった。
なにしろ、中国には人権がない。よってプライバシーもない。中国憲法では共産党が人民を指導することになっていて、政府(というより共産党)がネットを通して、人民を指導しているのだ。
さよなら上海! 1万人以上の日本人が脱出
ここで、ネットの話題から飛んで、最近の上海について述べてみたい。というのは、この中国最大のメガロポリスから、日本人が続々と帰国しているからだ。
私の知人も、昨年、長く上海暮らしをしていたのを切り上げて帰国した。
もともと、空気も油も悪く、健康を害してまで住むようなところではないと忠告していたが、そんなことを聞く耳を持たなかった彼が、なぜ帰国したのか?
その理由は、「結局、中国はカネがすべてで、それ以外にないと思い知ったこと。もう1つは、やはり息苦しい。ここ数年、本当に自由が感じられなくなったからです」とのこと。
実際、日本企業の中国“店じまい”は加速している。今年の1月には、日東電工が蘇州から撤退。7にはオムロンが、同じく蘇州から撤退した。韓国サムスンも撤退したので、上海のアウトゾーンの工業団地として発展した蘇州工業団地はいま閑古鳥が鳴いているという。上海の日本人居住区、虹・古北エリアのマンションも空室が目立つようになっているという。
この傾向は、最近の統計に如実に表れている。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、上海の在留邦人は2007年に4万7731人とニューヨーク、ロサンゼルスを抜いて第1位となり、その後、増加の一途をたどった。しかし、2012年の5万7458人をピークに減少している。そうして、2017年には4万3455人にまで減少。なんと、1万人以上の日本人が、「さよなら上海」をしてしまったのである。
先の知人が続ける。「みんな出ていくので、私も何度かそうしようと思いました。しかし、こちらでのビジネスはまだある程度回っているし、生活も築いてきた以上、なかなかその気になれなかったんです。
しかし、最近、完全にキャッシュレス社会になり、すべてネットでことを済ますようになり、嫌な感じがどんどん膨らんできたんです。街を歩けば、そこら中に監視カメラがあります。
こちらは、すでに人間の『格付け』(クレジットスコア)が進み、なにをするにもネットで獲得したスコアがモノを言います。便利は便利ですが、それとともに自由がない。モノを買うたびに、データは全部吸い上げられていると思うと気持ち悪くなりました」
中国の「人間格付け社会」に関して、すでに何度か書いたので、ここではふれない。ただ、スコアが低いと、飛行機の切符も買えないし、結婚も就職もできない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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