移民法の分野で30年以上の経験を持つ、C・スティーブン・ホーン弁護士がこのほど、日本語による「米国ビジネスガイド」を出版した。同書は、米就労ビザの取得と、申請者が直面する問題の解決に長年取り組んできた同弁護士の知識と経験を駆使して書かれたもので、同ビザを取得する予定の人や雇用者には必携の一冊といえる。同書について、また、トランプ政権下で気になるビザ事情について聞いた。
ビザ取得厳しい時代、心強い味方に
Q.「米国ビジネスビザガイド」には、どのようなことが書かれているのですか。
日系企業の移民弁護士を30年以上務めてきた経験をもとに、日系企業が使うことの多いビザについて説明しています。具体的には、駐在員ビザのE−1、E−2、企業内転勤者ビザのL−1A、L−1B、ブランケットL、そして一時就労者用のH−1Bなどについてです。各種ビザの理解を促すとともに、その申請過程、また間違いやすい点や注意すべき点についても述べています。
さらに商用のB−1ビザや、芸術・文化の分野で飛び抜けた才能を持つ人のためのO−1、スポーツ選手や伝統芸能の演者などに下りるPビザについても網羅しています。
Q.日本語で書かれた米国ビジネスビザの本というのは他にないのではないでしょうか。この本を読めば、自分でビジネスビザを申請できるようになるのですか。
そうとは限りません。この本は日本人にビザの基本的な情報を理解してもらうと同時に、それぞれのビザのメリットとデメリット、気をつけた方が良い落とし穴について知ることで、どのような選択肢があるのかの「全体図」を理解してもらうために書きました。ビザの専門家に相談する前にこうした知識を得られれば、雇用や人事異動プランを立てる際に、ビザ申請に適した人選を行うことが可能になり、ビザ取得のリスク軽減につながると考えます。
Q トランプ政権になって、ビザ取得が難しくなってきているのでしょうか。
日本からの駐在員を必要とする日系企業でさえも、就労ビザの申請・取得は厳しくなってきています。米国に巨額の投資をし、何千人もの米国人を雇用する企業であってもです。
Q 就労ビザの法律が変わったためですか。
実は、法律自体はあまり変わっていません。大統領令や米移民局の指針の変更により、政府の審査官の間で「反移民的」な姿勢が強まっていると考えます。
Q トランプ政権の移民政策は、具体的にどのような業界に強く影響を及ぼしているのでしょうか。
たとえば日系の自動車産業などでは、技術職の従業員がL−1BやH−1Bといった専門職のビザを取得し、米国の顧客企業の工場で就労するケースが多々みられます。このようなスポンサー企業外(オフサイト)での就労のための申請では、さらに多くの情報や資料の提出を求められるようになりました。
Q 在米の日系企業へアドバイスをお願いします。
一言では言えないほどたくさんありますが…、できるだけ短くまとめてお話ししましょう。
トランプ政権になってから、就労ビザの取得において以前は通用したものが、現在では通用しないなど、過去の申請方法に倣っても、現在は不十分な可能性があるので注意しましょう。
申請に無駄をなくすために、他のビザカテゴリーも視野に入れてみてください。たとえば、L−1BやH−1Bなどの就労ビザの代わりに、B−1の出張ビザで事足りるかもしれません。
また、L−1ビザとH−1Bビザ保持者の雇用主は、移民局職員が抜き打ちで企業の訪問調査を行う「サイトビジット」に注意しましょう。業務内容などが申請内容とかけ離れているとみなされた場合、ビザの取り消しにつながることもあります。
転勤者のL−1ビザでは、特に以下のことに注意してください。
米国での提示年俸額が著しく低く設定されていると、申請者のビザ適性が疑われる要素となり得ます。部下のいないL−1A管理職(Function Managerと呼ばれます)の申請は、現政権下では避けたほうが無難です。
専門職のためのL−1Bビザ申請も、可能な限り避けたほうが良いでしょう。近年は、役職の専門性や申請者の専門知識が十分であることが認められない傾向にあります。
申請手続きが進み、いよいよ米国大使館・領事館で面接を受ける段階になっても、申請却下につながりかねない、いわゆる「危険信号」があります。近年は駐在員ビザのE−1、E−2ビザ申請で特に注意が必要です。Eビザ申請に対する審査は、ここ1、2年で本当に厳しくなりました。雇用主は、この「危険信号」に触れないように気を付けなければなりません。
たとえば、Eビザの申請では次のことに注意してください。
•複雑な会社構造は避けましょう。
•E−1(貿易)ビザの場合は、巨額な取引を数回行うよりも、少額であっても頻繁に取引が行われていることを良しとする傾向にあります。
•E−2(投資)ビザの場合は、投資額の流れを分かりやすく示しましょう。
•10万ドル(約1090万円)以下の投資は、非常にリスクが高いです。•Eビザの規程では、米国人の雇用は必須とはされていません。ですが、特にE−2の場合は、投資が米国人の雇用を生むことを示唆することは有効です。
•新規ビジネスのE−2ビザ企業が、レンタルのオフィススペースやバーチャルオフィス、ホームオフィスを利用していると、ビジネスの信憑性が疑われ「危険信号」となります。
•更新・申請の際に米国人の雇用が進んでいないと、問題視される可能性があります。
Q 最後に、読者にメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、就労ビザの取得はトランプ政権の下で非常に厳しくなっています。そのため雇用者が提出する書類は、最近の審査の傾向に合ったものでなければなりません。ビザ面接を受ける従業員も、米国での仕事について、ご自身の口で明確に説明することが求められます。
このビジネスビザガイドで説明している申請の重要なポイントや具体的な対策が、皆様の理解を深める助けになることを願っています。
「米国ビジネスビザガイド」
米国の就労ビザに特化した日本語の非移民ビザガイドブック。各種ビザの概要から申請方法、申請に当たっての注意点などを最新情報を交えて総合的に解説。必要に応じて英語表記も加えながら、複雑な法的概念や専門用語も網羅している。
80ドル(米国本土内への送料・税込み)
【申し込み】 office@stevenhorn.com
氏名・会社名(該当する場合)・住所・電話番号・希望部数を英語で記載すること。
C・スティーブン・ホーン弁護士
ニューヨーク大学(NYU)卒業、移民法が専門。30年以上の経験を持ち、国際企業、著名実業家、アーティスト、科学者、研究者などの多くの顧客を持つ。日本クラブやジャパン・ソサエティー、ニューヨーク日本商工会議所などの法律顧問を務める。