連載198 山田順の「週刊:未来地図」 大麻合法化に乗り遅れる日本 (1の下) ついにNYでも解禁!ビッグビジネスに湧くアメリカ

大麻草栽培は大豆栽培よりはるかに儲かる

 大麻合法化で、勢いづいているのが、産業界である。なにしろ大麻関連ビジネスは裾野が広い。すでに、ニューヨーク証券市場では、昨年秋から大麻銘柄が値上がりを続けていて、大麻ビジネスはビッグビジネスになりつつある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、この1月23日、「ヘンプ栽培解禁、大麻商品人気でブームの予感 ヘンプは儲けの大きいドル箱作物になるか」という記事を掲載し、成長期待の大麻ビジネスを特集している。
 これは、昨年の12月12日、アメリカ連邦議会が、産業用大麻を規制物質の対象から外し、大規模栽培を認める法案(改正農業法案)を可決させたことを受けてのものだ。これにより大麻栽培は解禁され、大麻製品の広告が可能になった。
 「ヘンプ」(hemp)というのは、麻(あさ)のこと。つまり、大麻草である。アメリカではごく一般的に使われていて、主に産業用大麻をヘンプとしている。すでに、ヘンプ入りオイル、ヘンプ入り石鹸、ヘンプ入りクッキーなどが売られているが、そのヘンプはこれまでカナダ産のものが主に使われてきた。
 カナダでは20年も前から大麻草栽培が合法化されているからだ。しかし、今後はアメリカの農家がヘンプを栽培して大儲けできるとWSJは伝えた。WSJによると、ヘンプ栽培で得られる農家の利益は1エーカー当たり200~400ドル。これは、大豆栽培の11ドルよりはるかに大きいというのだ。

ホールフーズが大麻入り食品を発表

 大麻草に含まれる成分の総称を「カンナビノイド(Cannabinoid)」という。カンナビノイドには80種類から104種類の生理活性物質が存在する。そのうちの代表的なのものが、「カンナビジオール」(CBD)と「テトラヒドロカンナビノール」(THC)の2つで、CBDは、不安の緩和、吐き気の抑制、体の痛みや炎症の軽減などの効能があるので、多くの食品に使用されている。たとえば、腰痛に悩まされている人が、CBD入りクッキーを食べるといった具合だ。単にリラックスしたくて、CBD食品を買う人も多い。ちなみに、THCのほうは覚醒作用があるため、これまで大麻がまるごと薬物扱いされてきたのである。
 スーパーマーケット大手のホールフーズは、昨年11月15日、「2019年10大食品トレンド」の1つとして、CBD入り食品を発表した。CBD食品はクッキーなどのほか、コーヒー、料理用油、お茶、ビール、パスタと広範囲に及んでいる。大麻の専門紙ヘンプ・ビジネス・ジャーナルは、2018~2022年の5年間の合法大麻市場全体の年平均成長率は推定14.4%で、2022年までに19億ドル規模に成長すると予測している。
 医療用大麻市場も巨大化している。医療用大麻を使った治療薬を開発・製造する企業が次々に登場し、株式を上場している。GWファーマシューティカルズ、クロノスグループ、ティルレイなどがそうした企業で、ニューヨークダウが下落するなか、好調なパフォーマンスを見せている。

コーラ、ビールも大麻入りになる可能性

 大麻解禁の流れのなかでもっとも驚いたのは、昨年9月にコカ・コーラが、医療用大麻の成分が入った飲料への参入を検討すると発表したというニュースだった。大麻入りコーラは、従来のコーラに比べて多幸感が増すという。日本では信じられないが、大麻入りコーラが販売される日も近いのだ。じつは、大麻入りドリンクはコーラだけではない。ビールにも大麻が入る可能性がある。すでに、ビール会社のコンステレーションブランズ(メキシコビールとして有名なコロナなどの販売会社)が、大麻入りビールを検討していると発表している。こうなると、世界中の飲料水メーカーが、大麻入りドリンク市場に参入していくことになる。
 すでに、大麻はたばこより害がなく、依存症になる可能性が小さいと述べたが、その意味で今後、大麻がたばこにとって代わる可能性も出てきた。2018年12月、世界的なタバコのブランド、フィリップモリスを擁するアルトリアグループは、大麻企業クロノスグループの株式の45%を取得することを発表した。たばこ製造から大麻製造への転換をはかるのだろうか。
 このように、大麻ビジネスはどんどん進んでいる。しかし、日本はまったく動かない。現状では、医療用大麻さえまだ解禁されていない。医療用大麻はカナダ、ドイツ、オーストラリア、イスラエルなど、アメリカ以外の主要先進国の多くですでに合法化されている。このままでは日本は、ますますガラパゴス化していくだけになる。次回は「なぜ日本は大麻を厳禁しているのか」について考察する。
(了) 

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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