「使用」は禁止されていないが実質的に犯罪
大麻取締法では、大麻およびその製品の栽培・所持・譲渡・使用が禁止された。しかし、大麻を「使用すること」は禁止されなかった。大麻取扱者が認可制となったからだ。しかし、実質的に認可を求める人間はほぼいないので、全面禁止と同じだった。
これはおそらく、アメリカの「禁酒法」と同じ理屈である。禁酒法は酒そのものを禁止しようとしたが、「酒を飲んで気持ちよく寝る。そういう行為がなぜ社会悪のなのか」という反論を打ち破れなかったため、「禁酒法」で酒を飲むこと自体は禁止できなかった。
こうして大麻の使用は認められたが、大麻を譲り受けず、かつ所持をしないで使用だけするなどということは物理的に不可能である。したがって、大麻の使用自体は処罰されないとしても、その前後の行為が犯罪を構成し、逮捕・処罰されることになった。これは覚醒剤とは大きく異なる。覚醒剤などのいわゆる「麻薬」では、使用自体が犯罪とされるからだ。しかし、実質的には同じである。
大麻取締法では、次のように罰則が定められている。
大麻の所持、譲受・譲渡は、5年以下の懲役。それが営利目的の場合7年以下の懲役、事情によって追加で200万円以下の罰金。また、大麻の栽培・輸入・輸出は7年以下の懲役。それが営利目的の場合7年以下の懲役、事情によって追加で200万円以下の罰金。ただし、違反が初犯で単純な所持や譲渡の場合は、懲役1年程度に執行猶予3年程度が付くケースがほとんどで、所持量が微量の場合は、起訴猶予で不起訴になるケースもある。それでも、厳罰は厳罰である。
日本人の順法精神と政治決断
日本人はことのほか「順法精神」が強い。ひとたび、犯罪だとされると、それがなぜ犯罪なのかを疑おうとはしない。なにより「調和」を尊重するので、法律や社会のルールを守る。
どの国でも違法な薬物に手を出してしまう人は一定の割合で存在するが、日本はその割合が他国に比べて非常に少ない。国立精神・神経医療研究センターの資料では、1回でも違法薬物を使ったことがある人の割合を示す「違法薬物の生涯経験率」の国際比較調査は、日本は2.9%でアメリカの47.1%、英国の36.89%など、ほかの先進国と比べて圧倒的に低くなっている。このことが、今日まで「大麻取締法」を存続させてきた原因の1つと考えられる。
また、もし大麻が合法化されると、その影響を受けるのがタバコや酒である。実際、カリフォルニア州で大麻が合法化されたときは、タバコや酒の販売量が減った。となると、こうした業界が政治決断を遅らせようとしてきたこともあるだろう。さらにいえば、メディアに問題意識が希薄なことも一因ではないだろうか。
こうしたことも影響して、日本では薬学研究者や製薬会社などの間で大麻の治癒効果についての研究はほとんど行われてこなかった。製薬会社が、大麻成分を使った新薬開発をしたいと思っても、それができない。その結果、たとえば、大塚製薬は2007年に英国の製薬会社と提携し、アメリカで大麻成分を使ったがん性疼痛治療薬の販売に向けて臨床試験を行っている。
見直しを進めるWHOの動きに注目
しかし、アメリカで今年、連邦全体で大麻が合法化されるようなことになれば、この流れは変わるかもしれない。前回の記事で述べたように、アメリカではすでに大麻がビッグビジネス化し、今後、大幅な投資が行われる。アメリカでの大麻ブームは、「グリーンラッシュ」と呼ばれ、食品メーカー、飲料メーカー、医薬品メーカーがこぞって参戦している。
この流れをある意味でバックアップしているのが、2016年から進められている「WHO」(世界保健機関)による大麻の見直し審査である。これまでWHOは、1961年に制定された「国際麻薬条約」によって加盟国に大麻の規制を呼びかけてきたが、その判断を修正すべく検討に入っている。すでに、加盟国に対し見直しの話し合いに参加する要請を出している。これを受けて今年、国連では見直しのための投票が予定されている。
日本は「対米追従」の国だから、こうした流れを受ければ大麻が合法化される可能性がある。医療関係者や一部の議員は、「東京オリンピック後には、日本でも大麻が合法化されるだろう」と予測している。ただ、極めて保守的で洗脳され続けてきた世論と、これまでの歴史的経緯から、嗜好用大麻の合法化までは行かないだろう。かつて、日本中のいたるところで大麻が栽培されていた。そんな光景が見られるようになるには、まだ何年もかかるだろう。
今回はここで終わり、もう1回このテーマを続ける。次は「すでに合法化されたアメリカに旅行に行き、そこで大麻を吸ったらどうなるか? 帰国したら逮捕されるのか?」について考察する。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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