これからは、「日本は単一民族国家」とは一切言えないことになった。というのは、今国会で「アイヌ新法」が成立する運びになり、政府がアイヌを正式に「先住民族」と認めることになるからだ。
新聞・テレビなどのマスメディアはほとんど取り上げていないが、この新法に関しては、ネットなどで論争が続いている。アイヌを先住民として優遇措置を与えることに関しては根強い反対があるからだ。
なぜ、反対があるのだろうか?
これを突き詰めていくと、日本人のルーツの問題に行き当たる。また、今後、外国から「移民」(これを政府はあえて外国人労働者と呼んでいる)が大量に入ってくることにも影響を与える。
アイヌを先住民として優遇措置を与える
2019年の現在、この日本列島に民族的なルーツが違う人々がどれほどいるのかはわからない。しかし、ほとんどがいわゆる「日本人」(=ヤマト民族、和人)であり、日本は世界でも珍しい同質の単一の民族が暮らす国であるのは間違いないだろう。
アメリカやオーストラリアのように、先住民族がいて、それを欧州からの入植者が駆逐して成立した国家とはまったく違う。また、いまのところ日本は、多くの諸外国がそうであるような「多民族共生国家」にもなっていない。
しかし、今回の「アイヌ新法」は、アイヌを日本人とはまったく違う民族とし、さらに日本列島の「先住民」としての独占的な優遇措置を与えるものになっている。すでに、アイヌの人々に対して「アイヌ文化振興法」があり、アイヌの人々の伝統、文化、言語は保護されている。それにもかかわらず、今回の新法ができることになったのである。
新法の正式名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための政策の推進に関する法律」である。私などは、すでにアイヌの人々は十分に尊重されていると思うが、新法を推進した人々はそうは思っていないようだ。
しかも、目的を定めた第1条では「日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民であるアイヌの人々」と明記されているので、アイヌは、アメリカのアメリカンインディアン、オーストラリアのアボリジニと同じような先住民であると思っているのだ。
したがって、先住民に関する差別が存在するので、それを撤廃していく。具体的には、アイヌの人々が伝統的にやってきたというサケ捕獲や国有林の林産物採取には特例措置を講じる。さらに、これまでは北海道だけだったアイヌの人々への交付金を全国の自治体からも与えるというのが、新法の主な内容となっている。
「アイヌ新法」はじつは利権の確保のため
しかし、これは残念というか、勘違いというか、もっと言えばアホとしか言いようがない法案である。新聞・テレビなどのマスメディアは、批判を恐れてなにも伝えないが、じつは、アイヌ新法の本質は、アイヌの団体の「利権確保、利権拡張」なのである。
私の知人の国際政治学者の藤井厳喜氏は、「虎ノ門ニュース」(2月6日)で、次のように述べている。
「2月5日の予算委員会で日本維新の会の丸山ほだか議員が『安倍政権はアイヌ新法を今国会で成立させるようだが、いまあるアイヌ文化振興法が乱用されていて、福祉詐欺のようなことや使途不明金もたくさんあり問題である』と質問した。
国会でこの話題を質問したのは初めてではないか。
アイヌは日本人と一体になって日本国籍なので、アイヌを先住民族として認めることは問題である。少し勉強すればわかるが“アイヌ民族”という民族は存在しないんです。北方にいくつかの部族がいただけで、アイヌ自身も統一された民族だとは思っていなかったんです。
アメリカにはインディアンがいて、そこに白人が入っていったので、インディアンは明らかに先住民である。アイヌは数百年前から日本人と結婚したりして純然なるアイヌはいない。
アイヌの団体は戦後、アイヌの組織は完全に役割を終えた、つまり完全に日本人化したとして、アイヌ系日本人はいてもアイヌ民族は存在しないとして解散したところもある。
ところがアイヌには膨大な予算がついていて、いまでも福祉詐欺のようなインチキをやってお金をもらっている。それは『アイヌ協会』というところがあって、ここがアイヌを認定するんです。ではアイヌの定義は? というと、ないんです。こういうところが大きな力を持って、いまの補正予算案を含めると120億円のお金が出ている。アイヌは巨大利権と化している」
遺伝子から見てアイヌと和人の起源は同じ
たしかに、藤井氏の言うとおりである。私は何度も北海道に行っているが、これまで「先祖はアイヌです」という人はいても、「純粋にアイヌです」という人に会ったことはない。現在、アイヌ人口の統計はあるが、それは申告登録者であり、先祖から今日まで純粋な意味でアイヌと言える人はほとんどいないと思われる。
また、歴史を調べても、アイヌは大昔から和人と交流し、混血してきている。「日本書紀」には7世紀中ごろには現在の北海道後志(しりべし=小樽などを含む北海道南西部)には、大和朝廷の行政府が置かれ、和人とアイヌ人が盛んに交易していたことが記されている。これは、アボリジニしかいなかったオーストラリアにイギリス人が侵略してきた歴史とはまったく違う。しかも、イギリス人は、アボリジニを人間とは考えず、スポーツハンティングとして「アボリジニ狩り」をやっている。和人はそんなことはしていない。
交易と土地をめぐって和人とアイヌの戦いはあった。しかし、和人とアイヌは千年以上も共生を続けてきており、明治政府が同化政策を進めたため、アイヌは和人と同じように日本国籍を持つ日本人となったのである。
現在では遺伝子による分析も進んでいる。その結果、日本人のルーツもだいたい判明した。現代日本人は、先に日本列島に渡ってきた縄文人と後からやってきた弥生人の混血によって誕生した。縄文人も弥生人も起源はシベリアなどの北方であるという。DNAからは、アイヌも沖縄人と同様、和人と同じ起源であることが明らかになっている。また、アイヌ語も日本語も同じく縄文語を起源としつつ、その後、分化したものと考えられている。
つまり、アイヌだけを先住民とすること自体、歴史への冒涜であり、そもそも滑稽以外のなにものでもない。日本列島の先住民は、私たち日本人、そしてアイヌ、沖縄人であり、アイヌだけが先住民であるわけがない。
では、なぜ、いま「アイヌ新法」が成立しようとしているのだろうか?
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com