連載217 山田順の「週刊:未来地図」 新元号「令和」ともに大不況の到来か?(下)「平成」30年間の低迷はさらに深刻化する

31.2%の世帯が貯金ゼロという貧しい国

 思えば平成は、数年おきに経済危機に見舞われた30年だった。平成元(1989)年にバブルが崩壊し、平成9(1997)年に金融危機、平成13(2001)年にITバブルが崩壊した。さらに平成20(2008)年にリーマン・ショックが起き、平成23(2011)年には東日本大震災による不況に見舞われた。
 結局、30年もの間デフレが続き、国民全体にデフレマインドが染みついてしまった。そのせいか、生まれたときから経済低迷を経験してきた世代は、不況を不況と感じなくなってしまった。
 庶民生活は、節約で成り立つようになり、その節約を楽しむようにまでなった。賃金が上がらない以上、そうして生活するほかない。日本企業の賃金は、いまも30年前とほぼ変わらない。ところが、欧米企業の賃金は、この30年間で少なくとも2倍、いや3、4倍になっている。平成が始まったころ、誰が、中国がこれほど成長し、一部の企業で日本企業の賃金を上回ることになると想像しただろうか。
 現在、庶民は給料が上がらないため、貯蓄を削る生活を強いられている。もはや「1億総中流」という言葉は死語となり、企業社会は正規社員と非正規社員に分断され、格差が固定しつつある。
 昨年、金融広報中央委員会が発表した「家計の金融行動に関する世論調査・2人以上世帯調査(2017年)」では、31.2%の世帯が貯金ゼロであると回答している。とくにひどいのは単身世帯で、じつに46.4%の世帯が貯金ゼロと回答している。日本はここまで貧しくなってしまったのである。それが、平成という時代だと、いま改めて思う。

まさかの73%の人が「良い時代」と回答

ここに、驚くべきことがある。この3月27日に発表された共同通信の平成に対する世論調査(3000人対象)の結果だ。なんと、「どちらかといえば」を含め、73%が「良い時代」と回答しているのだ。共同の記事は次のように書いている。

《57%が他者に対し「不寛容になった」と回答。女性の地位については「ほとんど向上していない」「まだ不十分」を合わせると86%を占めた。調査は共同通信社が2~3月に実施した。経済が停滞し、大災害が相次いだが、戦争のない平和な時代であり、多くの人が日々の暮らしに一定の充足を感じていたといえそうだ。》

 本当に「良い時代」だったのだろうか? もし、本当にそう感じているなら、日本人は「やる気」というものをほとんど失ってしまったのではないだろうか。“おとなしい羊”になってしまったのではないだろうか。
 昨年末、85歳の誕生日に天皇陛下は、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに心から安堵しています」と述べられた。幼少期に戦争を経験された陛下だけに、このような感慨を抱かれるのは理解できる。しかし、戦争がなかっただけでよかったというのは、戦後世代の私には、大きな違和感がある。

イノベーションが起きなかったのは教育のせい

 平成の日本が致命的だったのは、イノベーションを起こせなかったことだ。イノベーションがなければ、成長も発展もない。この30年間で、私たちが見てきたのは企業の凋落ばかりで、アメリカのGAFAのような新世代企業は1つも生まれず、あれほど得意だったエレクトロニクス分野でも中国企業にさえ先を越された姿である。次世代モバイル通信5G、AI、ロボット産業などにおいても、世界をリードできる企業は1社もなくなった。
 それで思うのは日本の人材の劣化だ。資源のない日本は、これまで人材でもってきたといえる。イノベーションはヒトが起こす。いい人材がいなければイノベーションは起きない。つまり、平成が「失われた30年」になったのは、人材づくりに失敗した結果であろう。日本の教育は、この30年間まったく変わらなかった。「ゆとり教育」にシフトしたときもあったが、一貫して受験競争が続き、それに勝ち抜く人材を育てる教育が続いてきた。
 つまり、受験勉強をしていい学校に入り、いい会社に就職、そこで頑張って出世する。これが教育の目的であり、結果的に受験エリートは生まれたが、イノベーティブな人材は育たなかった。しかも、企業の採用は一括大量採用だった。かつての時代なら、これでよかったが、コンピュータ登場後の世界では、単に知識を身につけるだけの教育は無意味である。知識を身につけ受験に勝つだけの教育のなかから、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは生まれない。

借金財政も日本を低迷させた原因

いまも日本人は懸命に働いている。つい最近まで、ブラック企業の存在が批判され、過労死する人間が続出した。いまもそうだ。それなのに、日本の生産性はいっこうに上がらず、先進国でも最低である。
 公益財団法人日本生産性本部の報告書「労働生産性の国際比較2017年版」では、「2016年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)」は、46ドルで、アメリカの 3分の2に過ぎず、OECD加盟 35カ国中20位と低迷している。この根本原因は、イノベーションを起こせる人材が少なすぎることにある。      
 もちろん、国の政策もイノベーションを阻んできた。現在の日本は借金財政で成り立っている。平成元(1989)年に282兆円だった国の債務残高は、その後の国債の大量発行で、平成30(2018)年には1386兆円に達してしまった。
 経済危機のたびに民間の借金を国に付け替えたため、企業は成長できない体質になってしまった。市場経済ではイノベーションを起こせなくなった企業は退場を強いられる。それを国が救い続けてきた結果、日本経済全体が停滞してしまった。しかも、救う原資は国民の税金だから、国民全体が貧しくなるのは当然だ。
 教育と借金財政は、一朝一夕で解決できる問題ではない。しかし、これを早急にやり遂げなければ「失われた30年」は「失われた40年」になるのは間違いない。
 安倍首相は会見で、「1人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたいとの願いを込め、『令和』に決定した」と語った。
 しかし、願いを込めただけでは、現状は変えられない。
(了)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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