鍵を握るのはドイツ、メルケルはどうする?
この4月9日から、ブリュッセルでEU中国首脳会議が開かれる。(編集部注:本記事の初出は4月9日)この首脳会談以後に、欧州各国のファーウェイに対する姿勢がある程度確定すると思われる。
すでに、EUの指導部は、中国を「システミック・ライバル」とする公式の戦略文書を発表している。さらに、加盟国に中国企業の公的プロジェクトへの入札を禁じるよう呼びかける提案も出している。
ただ、5Gインフラ構築でファーウェイ製品を排除するかどうかは、加盟国に委ねると勧告している。
いずれにしても、EUの盟主はドイツだから、ファーウェイ排除の鍵を握るのはドイツである。メルケル首相は、トランプに徹底して嫌われている。なにしろ、トランプは彼女と握手するのも拒否したほどだ。
しかも、最近、ドイツとアメリカは軋轢続き。パリ協定からもイラン核合意からも離脱したトランプを、メルケルのほうでも嫌っている。
トランプは、「NATO加盟国はもっと軍事費増やせ」と要求し、とくにドイツの軍事費がGDP比で1.2%しかないことで、「少なすぎだ!」と怒った。さらに、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」に対して、「欧州のロシア依存が高くなりすぎる」と主張、このままでは欧州を守らないとまで示唆した。
はたして、メルケルはどうするのだろうか?
このまま、曖昧な態度でいることは、米中覇権戦争で中国を利することに繋がるので、最終的には排除に動くと思われるがーー。
中国経済はすでにピークアウトし低成長に
さて、最後は米中覇権戦争の今後がどうなるか? だが、結論は何度も書いてきているように「アメリカの勝利」である。中国に勝ち目はなく、中国が世界覇権を握るなどということはありえない。
気がかりは、トランプが「自由」とか「人権」とか、かつ「民主主義」などという価値観にまったく興味がないことだが、それでも、この先、アメリカ覇権が強化されるのは間違いないだろう。
それは、トランプがアメリカを世界のリーダーとして尊敬される国にしようという気がなく、力で世界に言うこと聞かせようとしていることでも明らかだ。
さらに、中国はすでに経済的ピークアウトしている。これ以上、強大になることはあり得ない。中国のピークは、2008年、北京オリンピックを開催し、リーマンショックに襲われた世界を4兆ドルの公的資金で救ったときだったと、私は思っている。
この年、中国では「労働契約法」が成立し、以後、解雇の自由がなくなり、人件費が高騰し、中国企業の成長は鈍化した。中国進出の外国企業も、中国脱出を図るようになった。
中国経済は、安い人件費による労働集約産業で発展してきた。それがなくなれば、低成長にならざるを得ない。
中国のピークアウトを真っ先に見越したのは、香港最大のコングロマリット長江実業(CKハチソン・ホールディングス)元会長、世界的な大富豪の李嘉誠だ。
彼は、2009年以後、中国にある資産を売りに売り、いまや総資産の1割を中国に残すだけだという。中国から「完全撤退」したのである。
半導体供給を止めれば「中国製造2025」は崩壊
アメリカが貿易戦争の次に仕掛けるのは、金融戦争だと考えられる。現在のアメリカは、自国の法を海外企業まで適用し、それに違反したものに制裁・罰金を科すようになっている。
ファーウェイは、その好例で、今後、この動きはますます拡大していくだろう。となると、アメリカの対ロ制裁や対中技術輸出禁止措置などに反した企業は、アメリカ国内でのビジネスを禁じられたり、ドルを用いた決済ができなくなったりする。
こうなると、中国ばかりか、世界中の企業がアメリカの法律に従わなければならなくなる。とすれば、日本やドイツの企業もアメリカの法に従うことになり、結果的にアメリカに納税しているのと同じことになる。
ならば、日本は少しでも納税の対価としての「発言権」を得るべきだろう。トランプのような人間が大統領でいる限り、アメリカは本気で日本を守ることはない。安全保障の対価はどんどん釣り上がるはずだ。
ところで、ファーウェイの機器で使われている半導体は、子会社の「ハイシリコン 」が米クアルコムから盗んだ技術で作ったものという。ファーウェイは、しきりに半導体の自前生産を強調するが、それらは欧米・日本から輸入した設備機器を使って生産されているはずだ。
つまり、半導体関連の対中輸出を止めれば、中国のIT産業、「中国製造2025」は崩壊する。ZTEはクアルコムの半導体を使えなくなったため、事実上、倒産した。
中国は、いまだに自国で使用する半導体の80%以上を輸入に依存している。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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