先週末から、トランプ大統領の来日大フィーバーが続いた。テレビは朝から晩まで、トランプ夫妻の一挙手一投足を垂れ流した。
ゴルフ、相撲観戦、炉端焼きディナー、皇居での歓迎式典、天皇陛下との会見、日米首脳会談、宮中晩餐会と、立て続けに日本側が用意した「おもてなし行事」に、大統領がどう反応したのかをこと細かく伝えている。そして、トランプは自衛隊の護衛艦「かが」に乗艦し、日米同盟をアピールした後、ようやく帰国の途に着いた。
そこで、思ったのが、アメリカ大統領をこれほどまで接待しなければ、日本という国はやっていけないのだろうかということだ。それも、とても信頼できない、単なる“オレさま男”のトランプである。トランプ個人をいくらご満悦させても、日本とアメリカの関係は変わらない。日本はアメリカの属国という枠組みのなかでやっていかなければならないのだ。今回、改めてこの現実を思い知った。
「日米同盟」といっても対等の同盟ではない
今回のトランプ大統領の来日で、日本の左右両陣営とも政府を批判したが、そのスタンスはまったく同じだ。アメリカに媚びすぎではないかというのだ。
日本において、左と右は鋭く対立しているように見えるが、その根っこは同じ。アメリカの言いなりであることが、感情的に許せないのである。
とくに、左の人々、反安倍の人々は、これが強い。「どこまで媚びを売るんだ」と、今回、安倍首相が朝から晩までトランプにぴったりくっついていたことを、「ポチ」と呼んで口汚く罵っている。
しかし、そうはいっても、日本の安全保障を握られ、いまだに半占領下にあるこの国で、ほかにやりようがあるだろうか? 「日米同盟は揺るぎない」といっても、それは対等の同盟ではない。アメリカが主で日本が従である。
私が気に入らないのは、これが厳然たる現実なのに、安倍首相がまるでアメリカと対等のように振る舞うことだ。今回の首脳会談後の記者会見でも、安倍首相は「私の友人、ドナルド」などと言ったので、聞いていて恥ずかしくなった。国民向けのポーズならまだいいが、もし彼が本当にトランプを友人と思っているとしたら、この首相は救い難い。
首脳会談の焦点は、日本政府が「TAG」(物品協定)と言い張る「日米FTA交渉」と「北朝鮮問題」だった。日米双方のメディアとも同じ認識で、会見ではそこに質問が集中した。
ところが、日米FTA交渉については、会見前日にトランプが得意のツイッターで、将来の合意を暴露してしまっていた。
7月の参議院選挙後合意とツイッターで暴露
来日してから、私はトランプのツイッターを追いかけていたが、26日13時半過ぎ、仲良しゴルフを終えてランチをとった後のツイッターは衝撃的だった。
《Great progress being made in our Trade Negotiations with Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait until after their July elections where I anticipate big numbers!》
(日本との貿易交渉で非常に大きな進展があった。農業と牛肉でとくに大きな進展が。日本の7月の選挙が終われば大きな数字が出てくる。待っているよ!)
FTA交渉の2大焦点は、日本が自動車関税を飲むかどうか、飲まないなら輸出規制などの対策をするのかどうかという問題と、アメリカの農産物をもっと買うために農業分野をさらに開放するかどうかという問題だ。
日本は、どちらも譲れない。とくに農業分野はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の範囲でしかできないと回答していると政府はこれまで言ってきた。
ところが、このツイッターによれば、すでに日米は合意に達していて、7月の参議院選挙後、「大きな数字」(big numbers)=「日本にとって不利な数字」が出てくるというのだ。つまり、日米はもう裏取引を終えていることになる。
じつは、このことはすでに一部でささやかれていた。農産物、自動車とも日本は関税交渉で譲歩すると、4月26日にワシントンDCで行われた10回目の日米首脳会談で決められたというのだ。
このとき、トランプは記者会見で「(日本の)首相がここにいるのは主に貿易交渉のためだ」「日本は重い関税を課している。われわれはそれを撤廃させたいと思っている」と述べ、記者から交渉の合意時期を尋ねられると「かなり早く進められると思う。たぶん(5月末に)訪日するまでか、訪日の際に日本でサインするかもしれない」と答えたからだ。
これに慌てた安倍首相は、会見後、トランプに「7月の参院選があるから、それまでは無理だ。2020年秋の大統領選のことはきちんと考えている」(『読売新聞』4月28日付の記事)と伝えたのだという。
質問に対して誠実に答えない安倍首相
ツイッターの件もあって、記者会見では、FTA交渉に関する鋭い質問が飛んだ。質問したのウォールストリート・ジャーナルの女性記者。
--安倍首相はトランプ大統領から自動車部品に関税を課さないと約束してもらったのですか?
この質問に対して、間髪を入れず、トランプがマイクに向かって囁いた。「私もその答えを聞きたい」と。
ところが、安倍首相はまともに答えず、杓子定規の言い方しかしなかった。
安倍首相「昨年9月、私とトランプ大統領は共同声明に合意しました。自動車部品も含め、現在、共同声明に基づいて、茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表との間で議論が行われています。今日こうした議論をさらに加速させていくことで、トランプ大統領と合意しました」
さらに続いて、次のような質問が出たが、これにも安倍首相はまともに答えなかった。
--日本は農産品の関税はTPPの水準が最大限だという立場に変わりはありませんか。大統領が8月に大きな発表があると発言しましたが、具体的なスケジュールや、米中貿易交渉についての議論はあったのですか?
安倍首相「昨年9月に大統領と共同声明に合意しました。これに基づいて茂木氏とライトハイザー氏との間で精力的な議論が行われています。今回も、相当詰めた議論が行われたと承知しています。トランプ大統領とは(茂木、ライトハイザー両氏の)議論をさらに加速させることで一致しました。共同声明を大前提に日米双方にウィンウィンとなる合意とする考えです」
このような安倍首相の言い方に、違和感を覚えるのは私だけではないと思う。なぜなら、質問の焦点にはいっさい触れないで、形式的なことだけを述べているからだ。国民に対して、じつに不誠実ではなかろうか?
トランプはいくら問題があろうと、いくら間違っていようと、自分の考えははっきりとフランクに言う。ジョークも言う。安倍首相にはこれがない。
国民は誰も、アメリカ大統領と日本の首相が対等な関係、まして友達関係にあるなんて思っていない。メディアがいくら忖度して「蜜月」を報道しても、そんなことを信じていない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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