連載227 山田順の「週刊:未来地図」 トランプ来日大報道に思うこと (下)   政治も歴史も知らない”オレさま“大統領

朝早くから「インディ500」をテレビ観戦

 今回の来日で私が驚いたことの2つ目は、ツイッターを追いかけて、次のツイートにぶち当たったことだ。

《Congratulations to the Great (and my friend) Roger Penske on winning his 18th (UNBELIEVABLE!) Indianapolis 500. I am in Japan, very early in the morning, but I got to watch Simon drive one of the greatest races in the history of the sport. I will see them both, & TEAM, at the WH!

(私の友人、ロジャー・ペンスクの第18回インディアナポリス500マイルレースでの優勝(信じられない!)を祝福する。私はいま日本にいるが、今朝、サイモンの過去の歴史上でもっとも素晴らしいレースを見ることができた。両者と彼らのチームにホワイトハウスで会おう!)》

 これは、5月26日朝のツイートである。トランプは宿泊先のパレスホテルのスイートで、朝早くから、なんと「インディ500」をテレビ観戦していたのだ。アメリカ人らしいが、この日は、行事がびっしり詰まっていた。要するに、たいして日本に関心がないということだろう。
 だから、宮中晩さん会でのスピーチには思わず、吹き出してしまった。

トランプの口から「万葉集」が飛び出す

 宮中晩さん会で、トランプは次のようにあいさつした。というか、与えられた文面を読み上げた。以下、その核心部分をNHKのウェブ報道より転載(コピペ)する。

《日本の新しい元号は令和で、美しい調和を意味します。この言葉は、万葉集と呼ばれる日本古来の和歌集に由来していると伺っています。令和は、日本国民の一体性と美しさを祝福するものです。
 そして、それはまた、変わりゆく時間の中でも、我々が受け継いできた伝統の中に我々が安らぎを得られることを思い起こさせます。

 令和がその由来をもつ万葉集の第5巻には、2人の歌人によって書かれた文章の中に、この瞬間に関する重要な洞察を与える記述があります。
 その歌人の一人は、大伴旅人ですが、春がもつ潜在的な可能性について書いています。もう一人の歌人は山上憶良で、1人目の歌人の良き友人であり、家族や将来の世代に対する私たちの厳粛なる責任を想起させます。
 これらはいずれも古来の叡知から受け継がれてきた美しい教えです》

 なんと、トランプの口から「万葉集」と大伴旅人、山上憶良が飛び出したのだ。いったい、誰がこのスピーチを書いたのだろうか?
 ただ、トランプは間違わずはっきりと、マンヨーシュー、オオトモノタビト、ヤマノウエノオクラと発音した。

本当にトランプは再選されるのか?

 トランプは出発前の5月24日、ホワイトハウスで記者団に対し、日本訪問に対してこう言った。
 「日本の天皇にとても重大なことが起きている。200年以上で初めてのことだ。安倍首相は私に『あなたは名誉ある賓客だ』と言った。私だけが賓客だ。つまり、世界中の国々のなかで、この200年のうち最大の行事で、私が賓客なんだ。
(With all the countries of the world, I’m the guest of honor at the biggest event that they’ve had in over 200 years)」

 本当にとことん自慢が大好きな大統領である。自分は偉大と信じ込み、次の選挙でも必ず勝ってみせると思っている。だから、今回の日本訪問は支持者に対してのアピールでもあった。すなわち、「オレさまは日本でこんなに歓迎されている。その日本から、あなたがたのために貿易赤字を取り戻し、あなたがたに配る」ということなのだ。
 今回の訪日を、アメリカのメディアは、極めて冷たい目で報道した。ワシントン・ポストは「日本での最初の1日を観光客として過ごした」と皮肉った。中国の国営新華社通信は「形だけで中身はない」と切り捨てた。たしかにその通りである。
 トランプはとんでもない大統領だが、ただ1つ世界覇権に挑戦する中国を徹底的に叩こうとしている点では評価できる。中国の覇権拡張でもっとも困るのが、わが日本だからだ。
 中国は、アメリカとの持久戦に入った。トランプが再選されないことを願い、そのときが来るのを待つ作戦に出た模様だ。
 はたして、トランプは再選されるのだろうか?
(了)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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