在米資産凍結とドル取引停止という制裁
すでに、この連載で何度か述べているが、米中貿易戦争が行き着く先は、アメリカと同盟諸国による中国への経済制裁及び金融制裁である。中国は、ロシア、イラン、北朝鮮と同じ目にあうだろう。中国が「中国製造2025」を断念せず、「中国の夢」(アメリカを追い抜く大国になる)を目指し続けようとするなら、この状況は、そう遠くない将来にやってくる。
この世界はドルによる取引で経済が回っている。
したがって、アメリカが中国企業と個人がアメリカに持つ資産の凍結とドル取引の停止を実施すれば、中国はにっちもさっちもいかなくなる。
アメリカは同盟国ですら、アメリカのルールに違反すれば、金融制裁を科す。たとえば、かつてフランスのBNPパリバ銀行は、アメリカの制裁対象国と違法な取引を行ったとされ、アメリカ当局に対し89億7000万ドルの罰金を支払わされるとともに、1年間のドル取引の停止を科せられた。
こうして、貿易戦争は最終的に経済・金融制裁に行き着き、おそらく、中国は人民元の強制切り上げ(第2のプラザ合意)を飲まざるを得なくなる。これは、1985年のプラザ合意により、日本が敗戦したことと同じである。その後、日本経済は空前のバブルに突入し、その後のバブル崩壊によって、衰退を余儀なくされた。
中国は日本のプラザ合意から学ぼうとしている
現在、中国は日本の歴史から必死に学ぼうとしている。習近平政権は国内事情もあって強気の姿勢を崩さないが、中国のエコノミスト、学者たちは、中国が日本の二の舞になることを警告し始めている。
つまり、プラザ合意の再来である。
日本はアメリカの圧力に屈して合意を受け入れ、円高を誘導し貿易摩擦の解消を図らざるを得なくなった。だから、中国は、なんとかして合意を先延ばしにし、譲歩の余地をできるだけ少なくすべきだというのだ。
しかし、この考え方には無理がある。
なぜなら、日本はすでにアメリカの属州となっていたうえ、プラザ合意は日本単独ではなく、英国、フランス、西ドイツ(当時)も加わっていたからだ。
プラザ合意後、円だけが対ドル高になったわけではない。ドル安が進み、5カ国の通貨はみな対ドル高になった。つまり、対米貿易のインバランスの是正は、「国際協調」という名の下に行われたのだ。
しかし、トランプの頭のなかには、「国際協調」という言葉はない。トランプは「二国間」しか頭になく、中国は中国でターゲットにしている。中国がいくら、自ら実行していない「自由貿易」を訴え、国際協調を唱えても、最終的に着いてくる国はない。
勝っても植民地化せずに民主化する
ローマ史をさらに見ていくと、ローマ衰亡は醜い内部抗争の結果だったことがわかる。ローマは属州からの富の収奪で繁栄したが、その富を巡って権力上部で争奪戦が起きて共和制が崩壊。民衆を味方につけるため、「パンとサーカス」政治が行われるようになり、貴族、上院議員が持っていた「ノブレスオブリッジ」(noblesse oblige)が消えていったのだ。人々は拝金主義に陥り、共和制価値観が失われてしまった。
これは、ポピュリズム(大衆迎合主義)がバラマキを誘発し、民主主義を破壊していくプロセスによく似ている。いま、ベネズエラが陥っている状況がまさにこれだ。
しかし、いくらトランプが大統領になろうと、まだアメリカ的価値観は崩れていない。自由と人権、そして民主主義を守ろうとするアメリカは健在だ。
これまでのアメリカの戦争を見てくれば、アメリカがローマと同じように敗戦国を完全な植民地にせず、ある程度の自治を認める国であることがわかる。
そればかりか、アメリカは敗戦国を民主化しようとする。日本はその典型的な例である。アメリカは原爆を2発落として日本を降伏させ、完全な植民地にすることにできたにもかかわらず、日本国と日本文明を存続させた。
ローマ史と自国の歴史から私たちが学ばなければならないのは、こうした点である。私たちの国家と文明は、中国がアメリカを超えるようなことが起こったら、間違いなく破壊される。米中が対立しているから、なんとか仲を取り持つ、両方にいい顔をするなどという選択はあり得ないことを知るべきだ。
日本はアメリカの属州に甘んじるしか選択肢はなく、一刻も早く中国から手を引くべきだ。企業は中国生産と中国企業との取引を徐々に止め、国は「日中友好」を表向きだけに限るべきだろう。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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