連載241 山田順の「週刊:未来地図」 政治家も有権者もメディアも日本はどうでもいいのか?(中) “無関心” 参議院選挙に思うこと

なぜジャニー喜多川番組ばかりやっているのか?

 いつもなら、新聞、テレビなどのマスメディアは、もっと選挙報道をしていたと思う。候補者たちの動静、政党の公約、選挙の争点などを掘り下げて、特集を組んだりしたと思う。それが、今回はほとんどない。
 先々週から、テレビでひっきりなしにやっているのは、韓国への輸出規制問題とジャニー喜多川の追悼番組だ。国の行方を決める選挙より、テレビはこちらのほうが視聴率が取れるうえ、番組もつくりやすい。しかし、たかがプロダクションの代表がふつうに死んだだけで、なぜ、これほどまでにやるのか? むしろ、これでジャニーズ帝国のテレビ支配力が弱まると喜んでいるテレビ関係者のほうが多いのに、じつに不思議だ。
 なにごとも、テレビで繰り返しやらないと、世間に広まらない。選挙も同じで、投票日を知らない人のほうが多かった。まして、候補者は誰なのか、ほとんどの人間が知らない。
 せめてメディアは、今度の選挙の争点ぐらいは報道したほうがいいと思うが、それをしない。「老後2000万円問題」「消費税増税の是非」「アベノミクスの成否」など、生活に直結する問題は、掘り下げて伝えるべきだと思うが、どこもおざなりにしかやらない。

公正報道など必要ないのに選挙報道に及び腰

 いまや、メディアはほとんどが「忖度メディア」になった。現政権に不利になりそうなことは、ほとんど流さない。思うに、日本の外交は歴史的に見て最大の失敗をしているのに、それを一切言わない。
 北朝鮮は拉致問題で1ミリも動いていない。韓国とは史上最悪の関係になった(まあそれでいいが経済的なメリットはない)。北方領土は返還交渉をしたことで、ロシアは1島も返さないことを決定したうえ、日本からの経済援助だけを懐にした。首相がトランプといくら仲良くしても、選挙後はFTA交渉でアメリカに大幅譲歩(TPP以下)を飲まされることが決まっている。
 つまり、安倍晋三首相は、就任後、日本の国際的な力を大きく落としてきた。“外交の安倍”ではなく、“外交大失敗の安倍”と言えるだろう。
 メディアの選挙報道は、これまで中立公正を是としてきた。それは、テレビの場合、放送法第4条に「政治的に公平であること」「意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という、公平の原則があったからだ。そして、これは「量」によって担保されてきた。
 たとえば、安倍首相の演説を1分間流したら、共産党の志位和夫委員長の演説も1分間流すという「量による公平性」だった。これは、大新聞の紙面においても同じだった。
 しかし、ネットというメディア空間ができたことで、この量による公平性は成り立たなくなった。ネット世界では、誰もが情報(たとえクズ情報、フェイク情報であろうと)を発信でき、そこに量的な制限はないからだ。
 そのため、一昨年、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、テレビの選挙報道について「編集の自由が保障されている以上は、求められているのは出演者数や露出時間などの量的公平性ではない」とし、政治的公平性は報道の「質」で保つべきだとする意見書を出した。
 「量」から「質」への転換である。
 となると、テレビ局は、視聴者(国民)の側に立って、自らの信念に基づいて、もっと自由に報道できる。それなのに、それをやらない。選挙報道には、完全に及び腰である。
 テレビも新聞も、他のメディアも、この国の行く末に責任感を感じていない。無関心だとしか、私には思えない。

アベノミクス、消費税はどこに行ったのか?
 政治家もまた、日本という国に無関心としか思えない。国民の生活にも無関心だ。関心があるのは、自分たちの地位を守ることだけ。だから、今回の選挙では、争点になりそうなことをほとんど口にしていない。
 それにしても、アベノミクスはどこへ行ってしまったのか? これまでの選挙で、「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」「アベノミクスはまだ道半ば」と言ってきた安倍首相は、今回、このフレーズをまったく口にしなくなった。
 統計偽装が発覚し、数々の経済データがネガティブになっていることがわかったいま、「誇大宣伝ではないか」と批判されるのが嫌なのだろう。アベノミクスはそもそも量的緩和以外、なにも新しいことはしていない。これでは、成果など出るわけがなかった。大胆な規制緩和などは口先だけで、できたのは“オトモダチ”加計学園だけだ。
 また、消費税増税の是非は、どう見ても今回の選挙の最大の争点だ。フツーに考えて、経済情勢が悪いときに増税するのは、経済的自殺行為である。
 しかし、首相はただ「やります」と言っているだけで、選挙演説では触れていない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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