Jayシェフ もう一度ニッポン〜20年ぶりの日本の生活〜 第15回 成田山でファスティング②

イラスト Jay


 ニューヨークでファスティングにハマっていた頃から日本の断食が気になっていたぼくは、日本へ行ったらぜひとも一度体験したいと考えていた。できればお寺で。ただ、そう期待しながら検索していると、今どきのお寺というのは女子ウケしそうな、
「宿坊&プチ断食」
みたいなノリも目立った。そうじゃなくてもっと厳かな断食修行はないものかと見つけたのが成田山新勝寺の「断食参籠修行」。

“That’s what I’m looking for!”

 それから数年が経ち慣れ親しんだニューヨークを離れたぼくは日本で2回目の春を迎えた。日ごと葉桜が鮮やかになっていくある日、用があって東京へ出掛けることに。仕事を終えたその夜は代官山のホテルに宿泊。そして翌朝、外はまだ真っ暗な午前4時。

「ピピピピッ」

 今や懐かしきアラームの音で目が覚め、すぐ支度をしてぼくは渋谷駅に向かった。待ちに待った成田山の断食修行へ行くためだ。とにかく時間厳守! とのことなので、早起きして始発に乗車。不慣れな土地でアレがないのはやはり不便だ。ついつい表示板に視線が行ってしまう。

「電気製品は一切ダメ、スマホ見つけたらすぐ出てってもらうよ」

 予約の電話でお坊さんにシッカリとクギを刺された。

「3泊4日の間はお風呂もなし、水しか口にできないから。それを理解して来るんだね?」

 ここは「宿坊&プチ断食」とはわけが違う。日暮里で京成本線に乗り変えひと安心。少しウトウトしているあいだに成田駅へ到着した。予定よりかなり早い。これから指定されたクリニックへ行き健康診断を受けるのだが、8時開始なのでまだ1時間以上ある。歩いて約10分とすぐ近くらしいのでそのまま椅子に座った。スマホのない時間。顔は自然と上を向く。あゝ空が青い。
 暫し春の何もしない朝を楽しんだあと、まだ人通りの少ない参道をのんびり降りて行った。クリニックにも早く着いたので入り口で始まるのを待った。8時を過ぎた。100円ショップで買ったアラームを何度も見た。8時15分を過ぎた。入り口を何度もそぞいた。8時30分を過ぎた。やっとドアが開いた。

「断食の健診ですね」

 ホッとした。のはいいが、さらに待合室で待たされることに。結局、診察はあっという間に終わった。しかしすでに8時50分。9時まであと10分しかない。お寺の行き方も知らないのに間に合うのだろうか。ここまで来てまさかの門前払い?

“It’s not my fault!”

 どこか納得のいかないまま、ともかく参道を駆け足ですっ飛んだ。
つづく

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Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理シェフなどの経験を活かし「食と健康の未来」を追求しながら「食と文化のつながり」を探求する。2018年にニューヨークから日本へ拠点を移す。