連載244 山田順の「週刊:未来地図」世界中の若者が「借金漬け」 (上) 奨学金、ネット金融、カードローンの罠

 奨学金が返済できない、カードローンが返済できないという若者が激増している。これは日本だけのことではなく、アメリカでも中国でも同じだ。世界的に、いまの若者は「借金漬け」にされているのだ。
 借金は、若者の将来を奪う。この問題に、どこの国の政府も真剣に対処しようとはしていない。
 いまの資本主義経済は根本的に借金で回っている。ただし、借金が増えるスピードを上回る経済成長がなければ成り立たない。若者たちの経済も同じだ。給料が上がらなければ、借金を返済できないのだ。

卒業してもいい仕事にありつけない

 いまの日本の若者たちにとって、この世界は残酷だ。私が若かった頃に比べたら、本当に生きづらい。そうつくづく思うのが、奨学金の返済ができずに自己破産したというニュースに接するときだ。
 日本の奨学金はほとんどが、奨学金の名を借りた学費ローン。しかも、金利が高い。これでは、卒業後、給料が高い優良な仕事に就かなければ返せない。しかし、いまの日本で正社員になれる就職先がどれほどあるだろうか? 就業者の4割は非正規雇用という時代になって、若者たちは借金漬けの生活を強いられている。
 これは、日本に限ったことではない。アメリカも中国も、英国も同じだ。そこでまず、その事情を見ていこうと思う。

いきなり約300万円の借金を背負う

 日本では最近、奨学金が大きな社会問題になっている。滞納者への苛烈な取り立てによって、家族ごと破産に追い込まれるということも起こり、そういったことが次々と報道されるようになったからだ。
 安倍内閣は参議院選を前に「大学無償化法」を成立させたが、その背景には、こうした奨学金問題があった。しかし、「無償化」の対象者は、住民税非課税世帯に限定され、国が指定した教育機関に通うことが条件とされた。つまり、中間層、一般の家庭は、無視されてしまったのである。
 いま批判を浴びているのが、奨学金の出元「日本学生支援機構」(JASSO、旧日本育英会)である。
 そのJASSOによると、大学生348万人のうち129万人(37.2%)が同機構の奨学金を利用している(2017年度)。割合にすると、なんと大学生の2.7人がJASSOの奨学金の受給者となっているというから驚きだ。しかも、驚くのは、奨学金の中身である。
 一般的に奨学金といえば、返さなくていい、つまり、全額学費免除などの「給付型奨学金」がこれに当たる。しかし、JASSOの奨学金はほとんどが返済義務のある「貸与型奨学金」となっている。
 貸与型は2種類あり、1つは無利子の第一種奨学金で、もう1つが返済義務のある第二種奨学金。1人の学生が借りる額で見ると、4年間の平均貸与額は学部生で第一種奨学金が237万円、有利子の第二種奨学金が343万円となっている。しかも貸与型のなかでも第二種奨学金の割合が、人数・金額ともに約6割を占めている。
 つまり、おおざっぱに言って、大学生はいきなり約300万円の借金を背負うことになる。
 そこで、利息を見ると、利率固定方式と利率見直し方式があり、前者の利息が0.23%、後者の利息が0.01%となっている。超低金利時代なので、利率見直し方式(5年ごと)の低金利を選択する学生が多い。ただし、インフレが来た場合などは、見直し方式だと返済額が膨らむことになる。
 そこで、利率変動がないと仮定して240万円を借りた場合の返済額を計算すると、次にようになる。

[貸与金額:240万円、貸与利率:0.01%、返還期間:15年(返還回数180回)、月賦返還額:1万3343円(最終月支払額:1万3450円)、返還総額:240万1847円]

奨学金は大学を潰さないための「大学金融」

 15年間で240万円、月々の返済額の1万3000円余り。これだけ見れば、それほどの負担ではないと思われる。ところが、これを払えない若者が続出しているのだ。
払えないと返済猶予を求めることになるが、猶予が認められるのは最長10年まで。10年を超えると、なんと収入がゼロでも返済義務が課せられる。
 さらに、ここに延滞金が加わる。返済が滞ると、延滞金の利率は年率5%になり、年とともに増えていく。こうなると、まさに消費者金融と同じで、月々一定の額を返済したとしても、延滞金、利子の順に充当されていくため、元本が減らない「借金地獄」に陥ってしまう。
 これが、はたして奨学金といえるだろうか?
 さらに驚くのが、JASSOは、奨学金を貸し付けるにあたって、その原資を民間の銀行や投資家から借り入れていることだ。たとえば三井住友銀行は1861億円を年利0.465%でJASSOに貸しており、これだけで約87億円の利息収入を得ている。
 また、貸し付けられた奨学金は、大学の入学金や学費の支払いに当てられる。つまり、本来、学生が集められずに潰れるはずの私立大学の経営を助けているのだ。これでは、借り手の大学生を媒介にした「大学金融」にすぎない。
 もし、JASSOの奨学金制度がなかったらどうなっていただろうか? 経済的に苦しい家庭の若者たちは、無理してまでランキング下位の大学に行かなかっただろう。となると、下位の大学から潰れ、大学教育は、ここまで荒廃しなかったはずだ。
(つづく)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com