連載248 山田順の「週刊:未来地図」 ついにトランプ大統領が怒りのツイート! (下) なぜ中国や韓国が「発展途上国」なのか?

アメリカのWTO大使が中国を名指しで非難

 トランプというか、アメリカ政府は、「S&D」自体が気に入らないわけではない。これに“タダ乗り”して優遇措置を受けている国があることが許せないのである。
 その最大の国は、間違いなく中国である。中国は、発展途上国の恩恵を受けることで、自由貿易体制に“タダ乗り”してきたからだ。
 したがって、今回のトランプの大統領令のメインターゲットは中国であり、ほかの国は付け足しだと思っていい。
昨年7月26日、ジュネーブで開かれたWTOの一般理事会の席で、アメリカのデニス・シアWTO担当大使は、「中国は世界でもっとも保護主義的だ」と、語気を強めて中国を非難した。
 シア大使は、中国政府の国有企業支援や補助金拠出、外国企業の参入規制を自由貿易の阻害要因だとし、これをただちに改めるように訴えたのである。これに対して、中国の張向晨WTO大使は「中国政府は企業に指針を示しているだけだ」ととぼけたので、欧州各国も日本もあきれたのだった。

機能不全に陥ったWTO上級委員会

 2001年、WTO加盟時、中国の輸出額約2660億ドルだった。それが2017年には約2兆2630億ドルと約8.5倍にも膨らんだ。
 これは、明らかにWTO体制の恩恵のおかげである。それなのに、中国は加盟時に約束した市場の自由化や透明性を高める努力を明らかに怠ってきた。そのため、アメリカはオバマ時代に、何度も中国をWTOに提訴した。
 しかし、途上国として優遇措置を受けるアフリカ諸国などの反対で、いざ裁定となるとアメリカに不利な裁定が出ることが多かった。また、アメリカは何度もWTOの改革を訴えたが、その度に無視された。
 そのため、アメリカはついに強硬措置に出た。2016年から、WTOの紛争処理機関で、最高裁の判事に当たる上級委員会の委員の任命(任期は4年、再選は1回限り)を拒否したのだ。WTOの上級委員会は7人の定員から3人が選ばれて審理を行うことになっている。
 ところが、現在、アメリカの拒否が続いているため、上級委員は3人しかいない。このうち2人の任期は、今年の12月に切れる。
 となると、上級委員会は実質的に機能停止に陥る。つまり、WTOは紛争裁定ができなくなるのだ。
 このような状況をわかっているはずなのに、韓国は、7月24日に開かれたWTO一般理事会で、日本の輸出管理強化を不当だと訴えたのである。しかも、日本の措置は「徴用工問題」に対する報復だとしたのだから、その外交センス、いや国家そのもののあり方を疑うしかない。

盗人猛々しい中国「人民日報」の反論

 このように見てくれば、今後、アメリカが独自で優遇措置を取りやめるのは明白だろう。その期限は90日である。この90日が過ぎ、12月にWTOの上級委員の任期が切れれば、もはやWTOは機能しなくなる。
 つまり、中国はよりいっそう窮地に追い込まれる。
 中国共産党機関紙「人民日報」は7月28日の社説で、さっそくトランプに反発した。「WTO改革は少数の覇権国家に牛耳られるべきではない」と主張し、今回のアメリカの措置は「傲慢さと厚かましさを露わにするもの」と指摘した。そして、「中国は途上国として認められた特別待遇を乱用していない」と付け加えたのである。盗人猛々しいとはこのことだ。
 どう見ても、傲慢で厚かましいのは中国のほうではないだろうか。
 ただ、日本のメディアに、ここに書いてきたような見方は少ない。いまだに、中国とは友好関係を維持したほうがいいようなことを平気で主張している。さらに、韓国との関係悪化を危惧する論調が多い。この両国と関係が悪化してどこがいけないのか?むしろ、悪化したほうが今後の日本のためにはいいと私は思っているが、どうだろうか?
 もはや、世界情勢は大きく変わり、中国は世界の貿易体制から排除され、じょじょに国力を落としていくのは確実である。ファーウェイはいずれ世界市場を失うだろう。
 この世界は、今後も、アメリカ主導のルールで動くのである。 
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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