連載249 山田順の「週刊:未来地図」 トランプ関税第4弾、株価下落、円高、消費税増税(上) 見通し暗い日本経済の今後は?

 連日の猛暑で思考停止に陥っているなか、日本経済の今後に大きな不安が感じられるようになってきた。8月1日に、トランプが対中制裁関税の「第4弾」を9月1日から実施すると発表して以来、市場は大荒れになったからである。
 NYダウも東証も大幅下落し、円高ドル安が進んだ。
 折から、韓国と史上最悪の関係になり、消費税増税が控え、五輪特需の息切れなど、日本経済に悪影響を与える材料は目白押しである。はたして、今後、日本経済はどうなるのだろうか? 市場はどう動いていくのだろうか?  
 今回は、日本経済の今後を展望する。

2日連続の株価続落と大幅な円高進行

 東証株価(日経平均)は、8月2日(金)に453円83銭下げて2万1087円16銭に下落、8月5日(月)にはさらに366円87銭下げて2万0720円29銭と続落した。それに伴い、円高・ドル安も一気に進んだ。東京市場では、1月上旬以来約7カ月ぶりとなる1ドル105円台をつけた。
 そのため、新聞をはじめとするメディアは、お決まりの言い方で、次のように報じた。
 「米中貿易摩擦の激化から中国景気の先行きが懸念され、為替市場では中国人民元が下落、円高が進みリスクオフムードが強まった。電機や機械など輸出関連、鉄鋼など素材関連中心に売られ」(ブルームバーグ)
 「米中貿易摩擦が激化するとの懸念が広がり、海外勢が株価指数先物に売りを出した」(日経)
 「米中貿易摩擦の長期化による世界的な景気減速懸念から安全資産とされる円が買われた。さらに円高が進めば、自動車など輸出企業の業績に影響を与えそうだ」(時事通信)
 はたして、このような見方は正しいのか? そして、今後、日本経済(世界経済の一部として)と市場はどうなっていくのだろうか?

トランプの発言のたびに同じことの繰り返し

 今回の株価下落、円高の進行は、すべて、8月1日のトランプのツイッターが発端だ。トランプは、中国からの輸入品ほぼすべてに制裁関税を拡大する「第4弾」を9月1日から発動すると息巻いた。
 これが実行されると、現在制裁対象から外れている3000億ドル分の中国製品3805品目に最大25%の関税が上乗せされる。すると、対中制裁の対象は計5500億ドルに達し、中国からの年間輸入実績にほぼ匹敵することになる。
 そうなれば、世界経済は大打撃を受ける。それを市場は懸念し、今回の株価下落、円高となった。
 しかし、すでに何度も同じことが起きている。米中貿易戦争が起きてから、毎回、これの繰り返しである。米中貿易戦争が米中覇権戦争であり、交渉は長引くというのはすでにみな知っている。
 だから、市場はそれを織り込んできたはずなのに、トランプがツイッターで、次の手を発表するたびに、こうなってしまう。
 よほどのお人好しでない限り、中国が貿易交渉で妥協するとは思っていない。また、トランプが世界経済全体の行方などに興味を持っていないと知っている。ともかくトランプは「アメリカファースト」(=自分ファースト)で、大統領再選のためなら、さらに中国を叩くだろうとわかっている。
 それなのに、なぜ、市場はそのたびに一喜一憂するのだろうか? 市場とは、ただの短期的視点しか持ち合わせていないのだろうか?

トランプのシンプルヘッドによる「利下げ」

 ここまでの一連の流れを見ていると、トランプはアメリカが受けるダメージは、中国ほど大きくないと気楽に考えているのは間違いない。シンプルヘッドだけに、アメリカのダメージは、金融緩和でしのげばいいと思っているようだ。
 トランプは就任以来、FRB(米連邦準備理事会)に対して不満をぶちまけてきた。低失業率でNYダウは過去最高値圏の株価を維持しているのだから、利上げは当然なのに、それを阻止しようとしてきた。
 つまり、金利が安ければ、みな借金をして投資する。株でも不動産でも、なんでも上がる。よって、経済は好調になる。金融緩和大歓迎というのが、トランプのシンプルヘッドなのである。
 こうして、FRBはリーマン・ショック後の2008年12月以来、10年7カ月ぶりとなる政策金利の利下げを決定。パウエルFRB議長は、いまや「トランプ・チャイルド」と揶揄される男に成り下がり、年内の追加緩和まで示唆するようになった。
 ドルの金利が下がるながら、世界各国の中央銀行も「右にならえ」するほかない。 ECB(欧州中央銀行)も、9月に利下げする方向になったと伝えられた。イングランド銀行も同じだ。こうして、世界はまた金融緩和時代に逆戻りし、借金経済が膨らむことになる。
 となれば、NYダウは高値圏を維持できるだろう。ただし、日本は、その例外になる可能性もある。

慌てた政府・日銀が緊急会合も「打つ手なし」

 8月5日の株価続落、円高進行に慌てた政府と日銀は、午後、緊急会合を開いた。財務省の武内良樹財務官は会合後に記者団に「過度な為替変動などの動きは経済・金融に望ましくない。必要に応じてG7やG20の合意に沿って対応する」と語った。
 ただ、どう対応するかはわからない。まさか、為替介入はないだろう。そうすれば、アメリカから「為替操作国」扱いされ、まとまる可能性が出てきた日米貿易交渉(日本では一時期これを「日米物品貿易交渉(TAG)」と勝手に命名したが、実質はFTA交渉)に悪影響を与えるからだ。
 ちなみに、日米貿易交渉は、日本の農業分野の開放と引き換えに、アメリカが自動車などの工業製品の関税引き下げに応じる可能性があると伝えられている。
 いずれにしても、日本は「円安」歓迎だから、1ドル100円以下の「円高」は避けたい。となると、日銀はFRBに追随して、さらに金融緩和を行うしかなくなる。
 ところが、日銀・黒田丸は、この6年半、「異次元緩和」を続けてきていて、追加緩和の余地はもうない。なにしろ、「マイナス金利政策」まで導入している状況である。
 はたして、どんな金融政策が打てるのか? 誰が見ても「打つ手なし」というのが実態なのではないだろうか。
(つづく)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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