「チャイナ・プラスワン」から「チャイナ・ゼロ」へ
中国を叩くことで、実体経済に多少のマイナスが生じるとはいえ、アメリカが受ける恩恵は大きい。世界覇権とドルの信認を維持することで、いくら財政赤字が拡大しようと、経済成長は続けられる。しかし、世界一の財政赤字を抱える日本は、そうはいきそうもない。
そう見ていくと、今後は不安材料だらけである。まず、いま大騒ぎになっている韓国との史上最悪の関係悪化がある。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、「重大な挑戦だ」「2度と日本に負けない」「政府が先頭に立つ」など、日本と戦う姿勢を露わにしたが、ダメージは韓国のほうがはるかに大きい。
よって、歴史的、政治的経緯はともかく、日本としては「勝手に騒いでいれば」ということで、問題を解決する必要はない。それに、仔細に日本の措置を見れば、韓国はなにを勘違いしたのか、国を挙げて「空騒ぎ」をしているだけだ。
それより、大変なのが、やはりトランプの中国への報復関税だろう。ここまで来ると、もう、日本企業が中国でモノを生産するのは見合わない。中国では儲けられなくなる。
そのため、中国撤退を急がなければならない。これまでは、「チャイナ・プラスワン」だったが、今後は中国なしの「チャイナ・ゼロ」にする必要がある。
中国からベトナムに移せば大丈夫なのか?
すでに、多くの企業(日本企業に限らず)、中国撤退を始めている。京セラは、ベトナム工場と中国工場での生産を入れ替えることを決めた。同社は、コピー機や複合機については中国でアメリカ向けを、ベトナムでは欧州向けをそれぞれ生産しているが、関税対象になるので、これを入れ替えることにしたのだ。
今回の制裁関税の対象品目は、スマホやパソコン、ゲーム機、衣料品、玩具など広範囲に及んでいる。
そのため、任天堂は主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の大半を中国で生産してきたが、すでにベトナムで一部の生産移管を始めた。今後は順次、ベトナムでの生産量を引き上げるという。また、リコーは7月末、アメリカ向けの複合機の生産を中国・深圳からタイに移した。シャープも中国からタイへの移管を進めている。
これらの動きを加速させなければ、日本企業が受けるダメージは拡大する一方なる。
ただし、ベトナムに移せばそれでいいのかという懸念もある。なぜなら、アメリカはベトナムとの間でも貿易赤字を抱えていて、貿易交渉を進めようとしているからだ。つまり、ベトナム製品にも関税がかける懸念がある。
とはいえ、アメリカのベトナムに対する貿易赤字額は約400億ドル。中国の10分の1以下だ。アメリカの貿易赤字縮小のための交渉の本丸は中国であり、次いでメキシコ、ドイツ、そして日本である。ベトナムにまで交渉が及ぶころまでに、トランプは退陣しているかもしれない。
やはり消費税増税が国民生活を直撃する
貿易黒字は、日本の生命線だが、それが減るより深刻なのが、国内経済の低迷だ。すでに、安倍政権の6年半で日本経済は低迷し、ほとんど成長してこなかった。それなのに、なぜ、消費税を増税するのだろうか?
参議院選でも大した争点にならかったので、10月増税は確実である。すでに国税庁は、「消費税の軽減自立制度」の関する資料を各方面に配布している。
安倍政権は、増税に伴う景気対策を別枠で扱うことを決定しているが、その中身を見ると、対策とはいえないものばかりだ。そもそも、わざわざ数兆円規模の対策予算を組むのであれば、いったいなんのための消費増税なのだろうか?
私たち消費者にとっては、8%だろうが、10%だろうが、モノやサービスに対して消費税を含めて価格提示された通りの金額を支払うだけである。「軽減税率」と「キャッシュレス決済のポイント還元制度」などの対策が決まっているが、ほとんど意味がないと思われる。
とくにポイント還元は、評判が悪い。システム改修費(政府が原則分4の3補助)がかかるうえ、期間限定である。
となれば、おそらく消費財増税後は、日本経済は落ち込む。消費税の増税が、国民生活を直撃するのは確実だ。ただし、それが顕在化するのは年末、さらに来年になってからである。
いまから心配する向きからは、「年末に株価の2万円割れは確実」「1万6000円まで下がる」という声も聞かれ始めた。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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