寿命はどんなに延びても115歳が限度
「110歳超のスーパーセンテナリアンってどんな人(日経ビジネス、2017年5月)という記事に、次のようなことが書かれていたので、私は「やはり」と思ったことがある。以下、その部分を引用する。
《ニューヨークのマウント・サイナイ病院の心臓血管研究所所長バレンティン・フスターによると、130の遺伝子において、センテナリアンやスーパーセンテナリアンだけが持つ特徴が見つかったという。例えば、それらの長寿遺伝子のうち「APOE」や「FOXO3」は他の遺伝子と機能して100歳から110歳になったときに心臓疾患や、がん、アルツハイマー型認知症から身を守る働きをするという》
となると、これらの遺伝子を持たないと、センテナリアンにはなれないということになる。
とはいえ、遺伝子の力にも、やはり限界はある。
英科学誌「ネイチャー」は、2016年10月、米アルベルト・アインシュタイン医学校の3人の研究者による「人間の寿命の限界を示す科学的根拠(Evidence for a limit to human lifespan)」という論文を掲載している。
それによると、人の寿命には限界があり、稀な例外を除けば、どんなに延びても115歳が限度だとしている。
食生活と地域社会がセンテナリアンをつくる
長寿が特殊な遺伝子によるものとすれば、話は身も蓋もなくなる。しかし、センテナリアンの研究では、生活スタイルの共通項が明らかになっているので、こちらは、一般の人間にも参考になる。
長生きをするためには、やはり、日々の暮らしのなかで注意したり、努力したりすることは必要のようだ。
これまでのセンテナリアンの研究から明らかになった共通点は、ざっと次のようなものだ。
「幸福感が高く自分の人生を肯定的にとらえている」
「毎日必ず体を動かしている」
「健康には注意を怠らない」
「きちんと食事をとる」
日本のセンテナリアンの研究では、「和食」が1つの理由とされている。「魚をよく食べる」「豆腐、納豆、味噌などの大豆製品の摂取が多い」など、日本人の食生活が長寿をもたらしているという。
沖縄は、日本のなかではセンテナリアンが多く、人口10万人につき68人と、日本の平均55人を上回っている。その原因の1つに、やはり食生活が挙げられ、ゴーヤ、サツマイモなどの野菜中心で脂分控えめの伝統的な食事が長寿にいいという。しかし、最近はファストフードや肉食が増え、食事の傾向が変わるとともに、沖縄の平均寿命の伸びは止まっている。
もう1つ、沖縄の長寿の理由として挙げられているのは、全国のなかでも地域の人々の結びつきが強いということだ。そのため歳をとっても、地域の人々が支え合って元気に暮らせるという。食生活と地域社会、これが生活面から見た長寿の原因であるが、それでも遺伝的要素のほうが強いと、最近の研究を知って私は思う。
次世代や社会に負担をかけずに死んでいきたい
いずれにしても、長生きは、健康でいられるなら、それに越したことはない。しかし、死を迎えるそのときまで、健康で元気でいられるなどということがあり得るだろうか?
ほとんどの人間は、がんなどの病に侵され、あるいは体力が衰えて、自力による日常生活ができなくなって、介護を受けながら死んでいく。これが、医学が発達しすぎた現代の死の現実である。
繰り返すが、メディアはそれをほとんど伝えない。長生きは本人にとって残酷であり、また、悲惨でもあることを隠そうとする。
老人を敬い、長寿を礼賛する伝統文化とは別に、日本には「姥捨山」のような、現実に即した話もある。ある一定の年齢に達した老人を口減らしのために山のなかに捨てに行く話は、深沢七郎が小説「楢山節考」で描いて、大きな反響を呼んだ。
これを都市伝説とする説もあるが、老いに対してこのような見方があるのは事実だろう。そう思うと、寝たきり老人が多いが老人施設は、現代の姥捨山ではないかと思う。
私も60代の後半に入ったので、このようなことを思うことが多くなった。どう死ぬかが、この後の人生の最大のテーマになってきた。次世代や社会に負担をかけることなく、自然のままに死んでいきたいと願うが、はたしてそれは実現するだろうか?
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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