10月1日、ついに消費税が8%から10%に引き上げられる。(編集部注:このコラムの初出は9月17日)しかし、かつてあれほど反対の声が上がったというのに、世の中は完全に諦めムードだ。メディアも、軽減税率などの解説に終始し、問題点を指摘しない。
どう考えても今回は、過去のどんなときよりも最悪のタイミングだ。世界経済の減速のなかで、日本だけがなぜ「自殺行為」のようなことをするのだろうか?
そこで今回は、消費税は本質的に悪税であるということ。その弊害についてまとめてみた。
2分された外食チェーンの軽減税率対応
消費税増税が目前に迫っているというのに、メディアの報道はおざなりだ。この税が本来持っている弊害について、ほとんど報道されていない。報道されていることといえば、増税とともに実施される軽減税率やポイント還元などのテクニカルなことばかりだ。はたして、本当にこれでいいのだろうか?
世の中、完全な諦めムードのなか、外食チェーンなどは軽減税率への対応でおおわらわだ。これまでの状況を見ると、大手外食チェーンの対応は2分されている。
軽減税率とは、「店内」で食べると消費税率が10%となるが、「持ち帰り」では軽減税率が適用されて8%のままになるというもの。持ち帰りは「生活に必要な」飲食品としての扱いになるからだ。
ところが実際には、持ち帰りで税込み価格を変える外食チェーンと、これまでどおり税込み価格を同じにする外食チェーンに別れた。
ミスタードーナツは上げるがマックは据え置き
たとえば、ミスタードーナツは店内と持ち帰りの税込み価格を別にした。人気の「ポン・デ・リング」は本体価格が100円だから、店内だと110円になり、持ち帰りだと108円になる。
しかし、マクドナルドは、消費者の混乱と利便性を考慮して、店内外での税込み価格を統一した。店内でも持ち帰りでも「ビッグマック」など約7割のメニューはこれまでと同じ価格にし、残り約3割のメニューは税込み価格を一律で10円値上げすることにしたのだ。
牛丼チェーンも、対応が2分となった。
すき家と松屋は店内外の価格を同じにする。しかし、吉野家は店内と持ち帰りを別価格にする。すき家と松屋が価格を据え置いたのは、消費税増税分を転嫁しない(つまり本体価格を実質的に値下げする)ことで、客離れを防ぐためだ。
はたして、このような対応の違いがどう出るかは、実際に増税が始まってみないとわからない。ただ、キャッシュレスによるポイント還元制度なども同時に実施されるため、消費税増に伴う混乱は避けられないだろう。
「公平な税金」という政府説明と国民の理解度
かつて政府は消費税を「もっともシンプルで、公平な税制度」と説明した。そして、増税に関しては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」と言ってきた。
しかし、それは本当だろうか?
国民が理解しているのは、政府の財政赤字が拡大する一方であること。その主な原因が社会保障費の増大であること。したがって、いまの社会福祉を維持するためには増税は避けられないということだ。
そのためのもっとも手っ取り早く、シンプルで公平な税金が国民全員が負担する消費税ならば、増税も仕方ないということだろう。
さらに言えば、一般国民は、消費税とは人がモノやサービスを買ったときに払うもので、その代金は店や業者が国に納めるものと思っている。よって、税率が上がったら、店や業者はその税率を適用して税込み価格を上げる。したがって、売値が上がると理解している。
ただし、世の中は競争だから消費税率が上がったからといって簡単に値上げができない。店や業者は大変だと思っている。
また、自分の懐で考えると、税率が上がったからといって、日常生活で買うモノやサービスは変わらない。したがって、上がった2%分の出費が増える。これは大変だ。消費を控えなければと思っている。
対策は制度を複雑にするだけで無駄
こうした国民の不安を解消しようと、安倍政権は消費税増税に対して「万全の対策を取る」と言ってきた。その結果、出てきたのが、食品など日常生活品に対する軽減税率の適用であり、キャッシュレス取引でのポイント還元制度、プレミアム付き商品券の発行などだ。
しかし、軽減税率は、その対象商品をどれにするのか、明確な基準を設けるのが難しい。また、前記したようにどこまでが外食か持ち帰りなのかも曖昧だ。
さらに、ポイント還元制度にいたっては期間限定の制度であり、対象となる加盟店でなければ受けられない。しかも、コンビニなどでは2%だが、小規模業者の小売店では5%と還元率が異なっている。
こうなると、「シンプルで公平」という政府説明は詭弁にすぎず、増税したうえで制度をより複雑にしただけではないだろうか。
さらに、安倍内閣は批判の声に、「景気の下振れリスクには躊躇することなく対策を取る」としているので、制度はもっと複雑になるだろう。しかも、こうした対策には税金が投入されるのだから、結局、増税の意味はなくなる。
本来、対策付きの増税策などというものがあり得るだろうか。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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