連載262 山田順の「週刊:未来地図」 増税で不況突入確実! (下) 改めて問いたい「消費税」の弊害

低所得者を苦しめる消費税の「逆進性」

 消費税そのものについては、さまざまな批判がある。そのなかで最大のものは「逆進性」への批判である。消費税には逆進性があり、それが低所得者を直撃し、格差をますます拡大させるというのだ。
 たとえば、所得税は収入が多いほど高い税率が適用され、高所得者ほど所得に対する税率が高くなるように設計されている。しかし、消費税の税率は一定で、誰にでも同じ税率が適用される。
 となると、高所得者ほど可処分所得に占める消費支出の割合が低いので、消費税増税の影響は低くなる。逆に、低所得者ほど可処分所得に占める消費支出の割合が高いので、増税の影響をもろに受けることになる。これが、逆進性だ。
 私たち消費者が消費するものには、必需品と奢侈品(贅沢品)がある。必需品の代表的なものは食料である。金持ちも貧しい人も、食べなくては生きていけない。しかし、所得から食料購入に支出する割合は、金持ちと貧しい人とでは大きく違う。
 食料購入費が年間200万円とすれば、年収2000万円の人にとってそれは10%にすぎないが、年収400万円の人にとっては50%となる。
 この逆進性の問題を回避するために導入されたのが軽減税率である。生活必需品は、税率を低く抑えるということだ。たとえば、イギリスでは、VAT(付加価値税、日本の消費税に相当)の税率は20%だが、食料品や医薬品はゼロ、光熱費は5%となっている。そのほか、医療、教育などは非課税である。
 しかし、日本はすでに8%なのだから、いまさら食料品に軽減税率を適用しても8%は変わらない。これはイギリスよりも高い。

消費増税でもっとも苦しむのは中小企業
 
 消費税を考えるとき、逆進性と並んで考えなければいけないのが企業活動への影響だ。私たちの社会は資本主義で成り立ち、それを支えているのは企業である。好景気、不景気は、なにより企業の活動によって起こる。そう考えると、消費税は企業活動にとんでもない弊害をもたらす。
 まずは、消費税を納税するときに手間とコストがかかりすぎるということ。
 消費税はすべての取引にかかるわけではない。土地や有価証券の譲渡などは非課税だし、給与や国外取引などはそもそも課税対象ではない。
 そのため、企業は行った全取引を、課税取引、非課税取引、不課税取引の3つに分類しなければならない。しかも、仕入れに際して負担した消費税分は控除できるので、売上げだけでなく仕入も分類しなければならない。さらに、今回は、これに軽減税率が加わる。
 こんな煩雑なことはない。これだけでも「消費税はシンプル」というのが嘘だとわかる。シンプルなのは税率だけだ。
次の弊害は、赤字でも課税されることだ。所得税や法人税は、利益にかかる。だから、赤字なら払う必要がないが、消費税はたとえ赤字でも売上があれば必ず払わなければならない。免税されるのは年間売上高1000万円以下の中小企業、自営業者などだけだ。
 ただし、1000万円以下といっても仕入れに関しては消費税を払うので、その分を商品の価格に転嫁できないと、利益は減少してしまう。
 となると、資金繰りに余裕のない中小企業や自営業者は苦しむ。実際、新規に発生する国税の滞納額の約6割が消費税となっている。だから、増税されれば、さらに滞納が増えるだろう。

今回だけではすまない消費税の増税
 
  このように見てくれば、今回の消費税増税は、日本の「自殺行為」にしか思えない。現在、メディアには「消費税増税を乗り切る法」とか、「消費増税でトクする買い物の仕方」「消費税増税のポイント還元に備えよ」などという記事があふれている。
 しかし、そのいずれも本当にトクなどできない。
 10月1日が来て予想されるのは、消費現場の混乱だ。(編集部注:このコラムの初出は9月17日)ただ、日本人のことだから、おとなしく状況を受け入れ、増税に適応していくだろう。しかし、税金は自然環境と違って適応すればいいというものではない。
 消費税増税の理由が、社会保障費の財源が足りないというのなら、増税は今回だけではすまない。高齢化社会はこの先も進み、社会保障費は毎年1兆円ずつ確実に増え続けるからだ。また、日本の財政は危機的状況にあるので増税するというなら、財政再建のほうを増税より優先するべきだろう。
 消費税増税の影響がはっきりとわかるようになるのは、おそらく、今年の暮れになってからだろう。しかし、そうなってから、いったい、なにをするというのか。
 こと経済政策に関しては、いまの日本政府はまったく無能としか言いようがない。本当に情けないことだ。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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