連載263 山田順の「週刊:未来地図」  2020年は本当に景気が後退するのか?(上)景気判断のシグナルとなる「グーグルトレンド」

2019年もとうとう10月になり、来年の景気がどうなるかという話が出るようになった。米中貿易戦争の激化、消費税増税の影響など、景気後退の懸念は尽きない。多くの専門家は、2020年後半までに確実に景気後退がやって来ると予測しているが、はたして本当にそうなるのだろうか?
 そこで今回は、景気の判断はそもそもどうやってするのか? どんな理論、指標に基づけばそれができるのか? ということを考えてみる。そして、1つのシグナルとして、「グーグルトレンド」が、もっとも簡単な方法ではないかということを提起する。

景気拡大はやがて終わり後退局面に入る

 これまでの報道を見てくると、多くの専門家が、「来年は景気が悪くなる」と言っている。日本では、消費税増税の影響を挙げて、「景気後退は確実」と見る専門家が多い。「五輪後不況」を言う専門家も多い。
 リーマンショック以後、10年以上にわたって景気拡大を続けてきているアメリカでも、「来年は景気拡大局面の終わりがやって来る」と言う専門家が多い。
 ただし、こうした景気判断は専門家によって異なるので、投資家や企業経営者は、いまだに態度を決めかねているようだ。しかし、景気判断は、投資家や企業経営者にとって最重要な課題である。どんな場合でも、将来を的確に予測できた者が利益を手に入れられるからだ。
 これは、私たち一般の人間にとっても同じだ。景気拡大が続くなら、これまでの消費生活を変える必要はないが、景気後退が起こるなら、消費を控える必要があるからだ。借金にしても、景気拡大が続けば問題はないが、後退局面が来るなら控えなければならない。
 ローンを組んで不動産を購入するなどという大きな消費は、景気後退時には痛手を負うことにつながる。

大統領選挙前にリセッションなる確率40%

 アメリカでは、今年の半ばごろから、「いずれ景気後退がやって来る」と言われるようになった。エコノミストやアナリストは、7月にアメリカ経済の景気拡大が過去最長となったため、これを言い出すようになった。
 私が注目したのは、ブリッジウォーターアソシエーツの創業者、レイ・ダリオの予測だ。彼はメディアのインタビューで、「アメリカ経済は悪化へ向かっている」とし、「2020年の大統領選挙前にリセッション(景気後退)に直面する確率が40%ある」と述べた。
 レイ・ダリオら投資家の見方は、これまで世界各国が行ってきた金融緩和が過剰な投資を招き、その反動がやって来るというものだ。金融緩和は市場に膨大な不均衡や巨額の負債を生じさせたから、その清算が確実に起こる。これは、実質金利のマイナスや財政出動では防げないというのだ。

「ミンスキーモーメント」が示すバブル崩壊

 ただし、レイ・ダリオは、毎年、同じようなことを言っている。彼は「ミンスキーモーメント」(Minsky Moment)の信者である。ミンスキーモーメントとは、簡単に言えば、バブル景気が崩壊に転じる瞬間のことだ。
 エコノミストでのハイマン・ ミンスキーが、金融の不安定性を説いた金融循環論のなかで唱えたことで、多くの投資家がこれを警戒してポジションを取っている。
 景気が拡大する局面では普通、債務の増加が起こる。企業であれ個人であれ、債務を背負って設備投資や資産形成を行う。すると、過剰な資産形成から、やがて資産価値が下落する局面(バブル崩壊)がやって来るというのだ。

景気循環は4つの局面を繰り返す

資本主義経済では、景気は循環する。つまり、拡大と収縮を繰り返す。
 景気の拡大から収縮への転換を景気の「山」(peak)、収縮から拡大への転換点を景気の「谷」(through)と呼んでいる。そうして、このプロセスを4局面に分けている。
 谷から山へ向かう局面を拡大局面=「好況」(prosperity)と呼び、山を越えて下り始める局面を後退局面=「景気後退」(recession)と呼ぶ。下り始めて谷に至る局面は下降局面=「不況」(depression)であり、谷を越えて再び上りはじめる局面は回復局面=「景気回復」(recovery)である。
 つまり、好況→後退→不況→回復→好況というように、景気は循環を繰り返す。
 そこで、いまのアメリカ経済は拡大局面=「好況」にあるから、いずれピークを打ち、後退局面を迎えるというのだ。ただし、NYダウを見ていると、いつがそのピークかわからない。なにしろ、いまは2万7000ドル付近という史上最高値圏にあるからだ。

景気判断の最大の指標はやはりGDP

 景気循環と同じように、景気の波を周期化したものに、「景気変動周期」(景気変動の波)がある。この代表的なものに、在庫変動に起因する約40カ月周期の「キチンの波」、設備投資の変化に起因する約10年周期の「ジュグラーの波」、建設需要に起因する約20年周期の「クズネッツの波」、技術革新に起因する約50年周期の「コンドラチェフの波」がある。
 アナリストやエコノミストたちは、このような景気循環と景気の波を意識しながら、各種の経済指標で景気を予測する。その指標のうち、誰もがもっとも使うのが、「国内総生産」(GDP)で、その変動により好不況を判断する。
 GDPは「民需+政府支出+貿易収支」として計算される総額だが、簡単に言ってしまえば、「一定期間(主に1年間)に生み出された付加価値の総額」であり、「国が一定期間でどれだけ儲けたか」と考えていい。
 つまり、前期よりマイナスなら、それは、景気後退といえるのだ。    
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。