連載264 山田順の「週刊:未来地図」 2020年は本当に景気が後退するのか? (下) 景気判断のシグナルとなる「グーグルトレンド」  

「逆イールド」の発生で株価が大幅下落

 今年の8月14日、アメリカの債券市場で、長期金利と短期金利が逆転する「逆イールド」
(inverted yield)現象が、2007年以来約12年ぶりに発生した。
 これを受けて株式市場は直ちに反応し、NYダウは前日より約800ドル値下がりし、今年最大の下落幅を記録した。 
 このショックは日本にも及び、15日の日経平均も前日比249円安と、約半年ぶりの安値を付けた。
 長期金利とは10年物国債(米国財務省債券)の金利で、短期金利は2年物国債などの金利だ。通常、国債は満期までの期間が長いほど、価格変動などのリスクが大きくなるので、金利は短期物よりも高くなる。このため、残りの期間を横軸にしたグラフ(イールドカーブ=利回り曲線)を描くと、普通は緩やかな右肩上がりになる。逆イールドとは、この曲線が逆転することだ。
 この逆イールドは、景気後退のシグナルとされるので、株価は大きく下落したのだった。
 逆イールドのように、景気判断の指標となるものは、ほかにもいくつかある。
 アメリカで重視されるのは、「製造業PMI」(PMI:Purchasing Managers’ Index)、「雇用統計」「銅価格」「設備投資」「住宅販売件数」「消費者物価指数」(CPI:Consumer Price Index)「輸出入統計」などだ。

日本では「景気動向指数」で景気判断
 
 日本でもアメリカと同じような指標があるが、国が発表する「景気動向指数」が、メディアではよく紹介されている。
 これは、企業の生産活動や利益、有効求人倍率など、景気の動きに敏感な各種の指標をあわせた指数で、指標の変化方向を合成することにより景気局面を把握する「ディフュージョン・インデックス」(DI)と、景気動向を量的に把握することを目的とした「コンポジット・インデックス」(CI)の2つの種類がある。
 かつてはDIを使用していたが、1984年からCIが参考資料として公表され、2008年4月以降は、CIとDIの両方で景気判断されるようになった。この判断が、毎月、内閣府から発表される。判断によって、(1)改善、(2)足踏み、(3)局面変化(上方・下方)、(4)悪化、(5)下げ止まりの5局面に分かれる。
 この前まで政府がさかんに喧伝していた「戦後最長の景気拡大の達成」は、この景気判断の基準日付がいつになるかで決まってくる。現在の景気動向指数は2015年を100としてポイントで示される。最新の7月の景気動向指数は、99.8で、すでに基調判断が3月、4月と6年2カ月ぶりに「悪化」となっていたので、「下げ止まり」に3カ月連続で据え置かれた。
 日本経済は、すでに「景気後退」局面に入っているのだ。

後退の予兆は指摘できてもいつかはわからない
 
 さて、このような指標がいくらあろうと、またどうなっていようと、前記したように、実際にこの先の景気がどうなるかは、確実に予測がつくものではない。いくつかの指標で、景気後退を示すシグナルが出ていたとしても、いつ景気後退の局面になり、それがどのくらい続くのか予測できない。アナリストやエコノミストは、市場が不安定になっている、景気後退の予兆があることは指摘できたとしても、後退がいつから起こるかは指摘できない。
 ただし、ミンスキーが唱えた金融循環論は生きているから、いずれミンスキーモーメントはやって来る。最近の例は、2008年のリーマンショックである。
 そこで最後に、もっとも安易で、当たるかもしれない指標を紹介したい。それは誰もができる「グーグルトレンド」(Google Trend)で、ワード検索することだ。この方法は、CNBCの番組で紹介していた。

「グーグルトレンド」は人々の関心事を表す
 
 「グーグルトレンド」は、特定の期間内にどういったキーワードが数多く検索されているのかをチェックできるオンライン検索ツールだ。
「グーグルトレンド」では、期間や国を選択してキーワードごとに比較することもできる。それで、ワードに「recession」(景気後退)と打ち込む。そして、期間(たとえば過去1年間、過去10年間など)と国(アメリカや日本など)を選択する。すると、グラフで検索数の推移が示される。
 CNBCの番組では、過去1年間が紹介され、逆イールドが発生した8月半ばに、「recession」の検索数が急上昇したことが示されていた。
 そこで、過去10年間にしてみると、ピークが2回あったことが示される。1回目のピークは2008年1月で、当時は2007年末から住宅バブルの崩壊が言われていたときだった。しかし、それでも市場はまだ楽観的だったので、次第に検索数も減った。しかし、2回目のピークが2008年9月にやって来る。これはまさに、あのリーマンショックが起こったときだ。
 「グーグルトレンド」の検索数は、人々の関心事を表しているのだ。景気は人々の心理に大きく左右される。とすれば、「グーグルトレンド」は景気動向を見るうえで、かなり有効なツールといえるのではないだろうか。  
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。