連載265 山田順の「週刊:未来地図」 景気悪化が鮮明に!(上) なぜ日本だけが過去30年間も低迷し続けたのか?

 10月7日、内閣府から8月の「景気動向指数」(CI、2015年=100)が発表された。前月より0.4ポイント低下の99.3で、景気判断は「悪化」だ。消費税の増税も始まり、今後の日本の景気はさらに悪化するのは確実だ。
 そこで今回は、平成の30年間もすでに過去になったことをふまえ、なぜ、日本経済は長期にわたり低迷し続けてきたのかを考えてみる。世界各国と比較して驚くのは、日本だけが四半世紀以上にわたって低迷を続けていることだ。
 さらに驚くのは、この慄然たる事実をメディアも専門家もあまり指摘せず、政治家も深刻に捉えていないことだ。そればかりか、現在の安倍政権は毎回、「景気は穏やかに回復している」と事実と違うことを言い続けている。

各国のGDPランキングにおける日本

 1990年、冷戦が終結するのと時を同じくしてバブル経済が崩壊してから、日本は「失われた30年」を続けきた。
 1990年の日本のGDPは、世界第2位の規模で、3.13兆ドルだった。それが、今年(2019年)は5.22兆ドルで世界第3位。数字とランキングだけを見ると、それほど低迷していないように思えるが、世界各国と比較してみると、日本だけが突出して低迷していることがわかる。
 以下、2019年の世界各国の名目GDPランキングをIMFの統計を基にして、1990年と比較できるようにまとめてみたので、じっくりと見てほしい。

[世界各国の名目GDPランキング2019年]
*IMFの統計に基づくデータ、2019年は推計値。( )内は1990年の確定値と順位。単位は米ドル。

1位: アメリカ21.48兆ドル(5.96兆ドル、1位)
2位: 中国14.17兆ドル(0.40兆ドル、11位)
3位: 日本5.22兆ドル(3.13兆ドル、2位)
4位: ドイツ4.12兆ドル(1.59兆ドル、3位)
5位: インド2.96兆ドル(0.32兆ドル、12位)
6位: フランス2.84兆ドル(1.27兆ドル、4位)
7位: イギリス2.81兆ドル(1.19兆ドル、5位)
8位: イタリア2.11兆ドル(1.17兆ドル、6位)
9位: ブラジル1.93兆ドル(0.45兆ドル、10位)
10位: カナダ1.82兆ドル(0.59兆ドル、7位)
11位: 韓国1.70兆ドル(0.28兆ドル、16位)
12位: ロシア1.65兆ドル(1992年以降の統計しかなし)
13位: スペイン1.47兆ドル(0.53兆ドル、9位)
14位: オーストラリア1.46兆ドル(0.32兆ドル、13位)
15位: メキシコ1.24兆ドル(0.29兆ドル、15位)

世界で日本だけが突出して成長していない

 この表、GDPランキングからいえるのは、世界の主要国のGDPはこの30年間で少なくとも2~3倍になっていることである。アメリカは3.6倍、ドイツは2.6倍、フランスは2.2倍、イギリスは2.4倍である。それなのに、日本は2倍以下、1.7倍にしかなっていない。G7の劣等生扱いされるイタリアでさえ1.8倍なのだから、日本の低迷がいかに突出しているのかがわかる。
 時間軸をもう少し下げて1995年にしてみると、このときの日本のGDPは5.44兆ドル。現在(2019年)の5.22兆ドルを上回っている。為替レートを考慮する必要はあるとしても、ここから日本は成長していないのである。
 こんな国は、世界にはほとんどない。
 この30年間、世界の主要国のGDPの年平均成長率は、アメリカの約5%を筆頭として、3~5%だった。ところが、日本だけがイーブンかマイナス、あるいは0%台である。これも日本だけが突出している。
 たとえば、ドイツは平均3%以上の成長を遂げていたので、この数字を日本にあてはめると、現在の日本のGDPは10兆ドルを超えていることになる。となれば、税収も年金基金の財源も不足することはなかったはずで、消費税の増税などする必要はなかっただろう。
 少子化、人口減、世界最速の高齢化などのネガティブ要因はあっても、日本の経済政策は明らかに失敗してきたのである。

中国などの躍進でアジアでもパワー喪失

 この30年間のGDPの推移で特筆すべきは、やはり新興国の躍進だろう。中国は、30年前は単なる新興国の1つで、GDPは日本の約13分の1にすぎなかった。それが、いまや世界第2位の規模となり、日本の約2.7倍、アメリカの約7割までに達している。
 中国経済は、この30年間で約35倍になったのだから、世界がいかに中国に投資してきたのかがわかる。ここまで中国経済が大きくなれば、彼らがアメリカ覇権に挑戦を始めたことも、数字からは納得できるというものだ。
 韓国もこの30年間で大躍進した。経済規模は約6倍になり、GDPは日本の約3分の1までになった。このような中国と韓国の躍進と同じく、アジアではインドも大きく躍進した。さらにタイ、インドネシア、マレーシアなどの東南アジア諸国は、いずれも日本の高度成長期と同じような経済性成長を成し遂げた。
 その結果、アジアのパワーバランスは大きく変わってしまった。かつてアジアの盟主は日本だったが、いまでは中国がとって代わった。東アジアと東南アジアを合わせた地域の経済に占める日本のシェアは、1980年代は7割ほどだった。それがいまや2割ほどにまで落ち、中国が6割に達している。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。