連載269 山田順の「週刊:未来地図」  逃げ切りか? 弾劾か? (中) トランプ錯乱が日本と世界に与える深刻な影響

「3人のアミーゴ」と弾劾スケジュール

 ウクライナゲートは、トランプ政権の別の問題も浮き彫りにした。それは、正式な外交チャンネルとは別に、トランプが関わる「裏チャンネル」があったことだ。
 これまでの証言で明らかになってきたのは、正規ルートである国務省のキャリア官僚とは別に、トランプの司令の下に、自らを「3人のアミーゴ」と称する人物がいたことだ。ゴードン・ソンドランド駐EU大使、カート・ボルカ―・ウクライナ特使、そしてリック・ペリー・エネルギー長官の3人である。
 さらに、この3人のアミーゴのバックには、大統領の顧問弁護士を務めるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長がいて、対ウクライナ政策に大きく関与していたという。ジュリアーニは、ウクライナでビジネスを行っていたから、この行為は「利益相反」 ( conflict of interest)に当たるうえ、トランプの次期大統領選に対する工作となる。3人のアミーゴとジュリアーニは、合衆国の利益のために動いていたのではないことになる。
 下院の弾劾調査委員会は、ジュリアーニに召喚状を出し、証言を求めた。しかし、ジュリアーニは召喚を拒否し、テキストメッセージや通話記録などの資料の提出にも応じていない。
 証言や資料がそれなりに揃わないと、弾劾手続きは進まない。現在のところ、まだ、調査は続いている。当初、民主党は11月28日のサンクスギビングの祝日までに「弾劾条項」と呼ばれる訴追の採決を目指すとしていた。しかし、これが実現する可能性は低い。(編集部注: このコラムの初出は10月29日)
 となると、年内いっぱい弾劾調査は続くだろう。
 しかし、2020年になれば、2月から大統領選予備選が始まる。そうなると、弾劾訴追での政党間の駆け引きや争いに、アメリカ国民は嫌気がさす可能性がある。国民が関心のあるのは、政治より経済だからだ。その意味で、弾劾は時間との戦いになるかもしれない。

ますます独善的になるトランプの錯乱行動
 
 弾劾から逃げ切れるか、それとも弾劾されるかは別として、ウクライナゲートが始まってから、トランプは「トランプ色」をますます強めている。つまり、人の話は聞かない、独善で勝手にものごとを決める。気に入らない人間を誹謗する。
 この状態は、周囲からは「錯乱している」としか見えない。得意のツイートも、支離滅裂になっている。
 いきなり、シリアから兵を引き、クルド人に対するトルコの軍事作戦を容認したことは、大きな非難を招いた。この決定は、国家安全保障チームでの議論や意見を聞くといったプロセスを経ず、その場で行われたことがわかっている。しかも、非難されると、トルコのエルドアン大統領に「馬鹿なことはするな」(Don’t be a fool.)という、暴力団のボスが抗争相手のボスに出すような親書を出している。
 また、突然、次回のG7サミットを自らが経営する「トランプ・ナショナル・ドラル・マイアミ」で開くと宣言し、民主党だけでなく共和党の議員たちからも批判された。大統領の立場を利用した「私利追求」ではないかというのだ。
 トランプは、自分のリゾートは「大きくて豪華」で、「素晴らしい宴会場や会議室がある」と強調。「トランプ・ナショナル・ドラルを使えばこの国にとってとてもよいはずだと思っていた」とツイートしたが、撤回を余儀なくされた。
(つづく)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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