連載273 山田順の「週刊:未来地図」 東京オリンピックに不安続出!(下) 酷暑のなかでのボランティアはやはり奴隷労働

テストイベントで露呈した数々の問題点

 いまや、暑さ対策は、東京オリンピックの最大の問題点となっている。ボランティアはもとより、主役である選手への悪影響が心配される。
 この7月に、オリンピックを前にして、いくつものプレ大会(テストイベント)が開かれたが、どの会場でも、この点が指摘された。
 まずは、ビーチバレー。7月26日に潮風公園で行われたビーチバレーのワールドツアー東京大会では、女子日本代表の溝江明香選手が熱中症になり、試合が一時中断された。当初、「暑くなりにくい」と組織委員会が結論づけていたビーチの砂に対し、選手たちから「熱い。とくにサーブゾーンは、掘らないと踏めないくらい」と指摘が入った。問題なのは砂だけではなく、会場そのものまで及び、「選手テントしか日陰がないので改善してほしい」という声も出た。
 極め付けは、8月15~18日にお台場海浜公園で行われたトライアスロンのテスト大会。このときは、初日の女子の部が、レース中に気温が32度まで上がるという予報が出たため、ランが10キロから半分の5キロに短縮された。
 さらに、給水地点を増やし、選手テントに氷水を張ったアイスバスを5台準備するなどの対策をしたが、途中棄権する選手が多く、フランスの選手はレース後に熱中症の症状を訴えて救急車で搬送された。
 私が驚いたのは、このとき日本女子最高の23位に入った高橋侑子選手(富士通)のコメントだ。
 「1カ月くらい前から練習後に38~40度のお風呂に40分入って我慢してきた」
日本人選手は、こんなことまでして対策を取っているのだ。
 お台場海浜公園では、オープンウォーター・スイミングも行われる。トライアスロン大会前の7月11日、行われたテスト大会では、暑さばかりか、驚くような指摘が出た。複数の選手が「トイレのような臭いがする」と訴えたのだ。
 じつは、東京湾は一部の汚染水が浄化不十分で垂れ流されていて、コース周辺の水域は水中スクリーンで囲っていた。しかし、その効果はなかったのである。酷暑対策と水質汚染、これを解決しない限り、オープンウォーターでの水泳は無理かもしれない。

競歩の鈴木選手が訴えているコース変更
 
 酷暑がもっとも懸念されるのが、マラソンと競歩である。いくら早朝に行われることになったとはいえ、朝から日差しは強い。日が差せば道路は灼熱地獄になる。
 9月29日、ドーハで行われた世界陸上の50キロ競歩で、日本人として初めて金メダルを獲った鈴木雄介選手は、レース後、改めてオリンピックでのコース変更を訴えた。
 鈴木選手は、すでにオリンピック本番で予定されている皇居の周回コースを試走。「日陰がない。脱水になる可能性も大いにある。可能なら再考してほしい」「選手はもちろん、観客にも酷なこと」と訴えていた。
 ドーハでの競技は暑さを考慮して深夜に行われたが、それでも、スタート時は気温31度、湿度74%。鈴木選手は脱水に近い症状となり、給水所で立ち止まる場面もあった。3分の1の選手が棄権し、優勝タイムは前回大会より30分以上遅かった。
 レース後、鈴木選手はこう言った。「暑いなかで完歩できるか、恐怖感が強かった。暑い条件の50キロはもう歩きたくないと思うくらいきつい。以前も言ったがオリンピックは日陰のコースにしてほしい。選手、観客、ボランティア、運営の方々の健康を考えてほしい。強く願っています」
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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