IOCとはいったいどんな組織なのか?
IOC(InternationalOlympic Committee:国際オリンピック委員会)は、言うまでもなく五輪を主催する組織であり、また同時に五輪に参加する各種国際スポーツ統括団体を統括する組織である。現在、その本部はスイスのローザンヌに置かれている。
設立は、1894年。もともとは、フランスのクーベルタン男爵がパリで作った民間団体で、スポーツを通じた青少年教育の理想を抱く欧州貴族たちが15人で始めた「サロン」にすぎなかった。
ところが、いまや巨大組織となり、委員の数は115人、職員は500人を超え、1年間の収入は約500億円に上る。民間団体だから、NGO(非政府組織)のNPO(非営利団体)となるが、実際は「利権団体」であり、企業からの協賛金、テレビ局からの放映権料などで運営され、莫大な収益を上げている。
今年の6月23日、IOCは新本部「オリンピック・ハウス」をメディアに披露し、創立125周年を祝う式典を開いた。この「オリンピックハウス」は、それまで4カ所に分散していた事務所を集約したもので、5階建てのビルの中央のらせん階段には、5つの輪が重なって見える工夫を施し、屋上の太陽光パネルは平和の象徴ハトをかたどっていた。
総工費は、約1億4500万スイスフラン(約160億円)。IOCは、「(環境に配慮した)世界有数の持続可能性を誇る建物」と喧伝し、バッハ会長は、式典でこう述べた。
「ガラス張りの外観はIOCの透明性を示しています」
しかし、これまで持ち上がった数々のスキャンダルを思えば、IOCのどこに透明性があるのだろうか。IOCは、いまや完全な利権団体で、商業主義が極限まで進んだカネまみれの組織と言っても過言ではない。
アマチュアリズムを捨て商業主義を導入
IOCが利権団体になったのは、五輪がアマチュアリズムを捨て、プロが参加する商業イベントになったからだ。
1976年、カナダのモントリオール大会は、日本円で約1兆円の赤字を出し、その後30年にわたり借金返済を税金でするというひどい状況になった。
そこで、1984年のロサンゼルス大会から、IOCは商業主義を導入した。推進したのは、当時のサマランチIOC会長で、背景には赤字とともに、アマチュアリズムに固執すると、ソ連や東独など社会主義国の選手(ステートアマ)にメダルを独占されてしまうということもあった。
五輪の商業化は、悪い面もあるが、むしろ、スポーツ振興、市民参加、健全運営という面では良いことのほうが多かった。しかし、プロ競技の数が増え、イベントが巨大化するにつれ、弊害も多くなった。
いまでは、五輪の運営はスポンサーの協賛金とテレビ局の放映権料、開催都市、開催国の予算拠出で賄われているが、これが、数々の歪みを生んでいる。
アスリートたちが使用するユニフォームや用具にスポンサー企業のブランド名を表示させるというようなことはいいとしても、アスリート自身がCMに出たりして、企業の広告塔と化してしまった。
スポーツが目指すのは、名誉であったり感動であったり、カネでは買えない価値である。しかし、こういう状況では、名誉や感動よりカネが優先する。
IOCはそれを知っているのに、カネを優先し、五輪開催を真夏にしたのだ。その理由は、誰もが知るようにアメリカのNBCが独占放映権料を払う代わりに、アメリカ本国でのスポーツイベントが少ない真夏の時期を要求したからである。
バッハ会長がいまさら「アスリートファースト」を言うなど、姑息と言うほかない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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